今月、木造和船の関係者のメーリングリスト「和船ネットワーク」を立ち上げました。私が事務局を務めています。とは言え、私は船のことはまったく素人、何も分かりません。なぜこんなことになったのかと言いますと・・・。
和船との出会いは2008年、森林文化アカデミーのある美濃市内に作業場を構える那須清一さんを訪ねたのが初めてです。那須さんは当時、長良川鵜飼で鵜匠が乗る船を作っており、私はアメリカからの見学者を連れて仕事を見せていただきました。
那須清一さんの作業場(2008年) |
那須さんは既に70代後半で、その後ほどなく鵜飼船づくりからは引退され、今は郡上市の田尻浩さんが後を継いでいます。田尻さんは風呂桶職人で、若い頃に那須さんのもとで船大工の修行も積まれた方です。
その田尻さんとは去年の夏にお会いしました。まだ50代で体力も技術もあるものの、船の需要が減っているためにこのままではいずれ廃業せざるを得ないというお話でした。
伝統的なものづくりに共通して言えることですが、新たな需要を作り出したり、各地に分散している小さな需要をまとめたり、需要が大きかった頃の分業体制を見直すなど、新しい時代に合った仕組みづくりをしなければ、どんなに優れたものも存続させることはできません。
田尻浩さん(左後方は船の材料のコウヤマキ) |
もう一人、和船関係者ではアメリカのダグラス・ブルックスさんに会いました。この人は日本各地の船大工のもとで修行した人で、外国人ながら日本の木造和船を残そうと奔走しています。去年の夏は瀬戸内国際芸術祭で「瀬戸内伝馬船」の復元をしていました。
ダグラス・ブルックスさんと瀬戸内伝馬船 |
いろいろ話をして感じたことは、船大工さんなどの技術者、博物館学芸員などの研究者、和船運行を行う会社など和船に関わる人たちはたくさんいるものの、ネットワークがなく、特に現場において情報が乏しいということです。たとえば船釘ひとつとっても鍛冶屋が減っているため、各地の船大工さんたちは探すのに苦労しています。
そこで、素人の私にでもできる支援として、メーリングリストを立ち上げることにしました。私のまわりにいる和船関係者やダグラスさんに紹介してもらった人など、10数人が参加しています。まだどんな成果が出るか分かりませんが、まずは人をつなぐことで何かが生まれればと思っています。
私自身は、長良川の鵜飼船をはじめとするこの地域の和船の技術を、田尻さんが次の世代へ引き継いでくれることを願っています。また、森林文化アカデミーの学生でこの分野に関心を持つ人が現れることにも期待しています。
和船ネットワークへの参加申し込みは、こちらのフォームからお願いいたします。