2015年1月31日土曜日

美濃和紙を知る・つながる・支える〜「コウゾ・プロジェクト」へ

 突然ですがクイズです。
「和紙がユネスコ無形文化遺産に登録」というニュース、お聞きになった方も多いと思いますが、登録されたのはどんな紙でしょうか?

 このクイズにきちんと答えられる人は、極めて少ないと思います。森林文化アカデミーはこの紙が作られている美濃市にあります。そこで和紙の現状と課題を、ものづくり講座の教員と学生が学びに出かけました。
美濃和紙の里会館 船戸友数館長に解説していただく

 まず無形文化遺産に登録されたのは、美濃の紙だけではありません。岐阜県の「本美濃紙」、島根県の「石州半紙」、埼玉県の「細川紙」の3つです。さらに、登録されたのはこれらの和紙(モノ)ではなく、伝統的な手漉き和紙の制作技術です。
 こうした技術が世界的に評価されたこと自体はとても嬉しいことですが、現場で職人さんから話を聞くと、厳しい課題が浮かび上がってきます。

 ひとつは原料。
 無形文化遺産の紙は、国内産のコウゾのみを使います。本美濃紙では、最高級とされる那須楮(名称は那須ですが茨城県で生産)を使っているのですが、生産者が70〜80代で、今後10年以内に生産量が激減すると予想されるのです。
 そのため若手職人の中には、自らコウゾを育て始めた人たちがいます。しかし高品質の紙をつくるためには夏の間、コウゾの幹から出てくる脇芽を絶えず取り除かなければなりません。紙漉きだけでも大変な作業なのに、膨大な手間がかかります。
美濃の手漉き和紙職人が自ら育てたコウゾ
手漉き和紙工房「コルソヤード」の澤木健司さん
 もうひとつは道具。
 紙漉きには「簀(す)」という竹製の道具を使いますが、「本美濃紙」は竹ひごの継ぎ目が紙に写らないよう工夫された「そぎつけ」の簀を使うことが条件なのです。写真上が普通の簀、下がそぎつけの簀。竹ひごの太さはなんと0.5mm以下です。
上・通常の簀、下・そぎつけの簀
 1本1本を斜めにそいで継いであるのが分かるでしょうか。1枚の簀を作るのに2000〜3000本もの竹ひごをそがなければなりません。実は、これができる人がいないのです。というより、それだけの手間をかけられる人がいないと言った方が正しいかも知れません。
 美濃に現存するそぎつけの簀はわずか10本ほど。職人たちはそれを修理しながら使っているのが現状です。使えなくなってしまえば、もう本美濃紙は作れません。
そぎつけ
 美濃市で作られる和紙は「本美濃紙」だけではありません。他にもさまざまな手漉き和紙があり、機械漉きの和紙もあります。それらすべてを合わせて「美濃和紙」なのです。機械漉きの会社の方からは、これから原料の課題は手漉きと機械漉きの生産者が共同で取り組んでいくこともできるのでは、との心強い声もありました。
丸重製紙企業組合 専務理事・辻晃一さん
 こうした課題を共有し、美濃の紙づくりを支えていくため、ネットワークづくりを始めています。
 岐阜県庁の地域産業課、美濃市役所の産業課、美濃和紙の里会館、岐阜県産業技術センター紙業部、岐阜県森林研究所、そして森林文化アカデミー。まずは関係する公共団体のメンバーが集まり、美濃市で品質の高いコウゾを育てる研究や、一般の人に美濃和紙に関心を持ってもらう講座などを協力して取り組んでいこうと話をしました。森林文化アカデミーも、学生の実習などで関われそうです。
 これから更に、地元のコウゾ生産者、手漉き職人さん、機械漉きの会社の方たちにも輪を広げていきたいと思います。
 まずは現状を知り、いろんな人とつながり、みんなで支える「コウゾ・プロジェクト」へ、これからがんばります。

2015年1月29日木曜日

ぶり縄で地上10mまでいっちゃいました。

枝打ちの登りは、ぶり縄か、ラダーか、河野式か、与作か?

女子学生でもラダーで楽々登る。 今日は関市洞戸のカネキ木材さん所有のヒノキ林で枝打ち
の実習です。

 枝打ちは手鋸で、使用する木登り方法は
  ①ラダー、②枝打ち用ペッカーラダー、③河野式登降機、④与作、⑤ぶり縄 の5種類。

    最初に道具の基本操作についての確認をして、いざ実践!



 大半の学生は最初はラダーで木登り、手早く立木に装着して仕事も素早く!!

左側3名の女子学生も、右側3名の男子学生も、同じように仕事をこなしました。


 男子学生は余裕のポーズ!

  ラダーと安全帯があれば、体も安定して作業もスイスイ!


 与作で登ると、一見へっぴり腰に見えますが、これが安全で落ちん!

  両手も使えて、幹の周りを360度回ることも簡単。 楽に地上9mくらいまで登れました。



 河野式登降機も馴れると便利。 幹の周りも360度回転できて、意外に楽しく作業をすること
ができました。降りるのも簡単でしたが、チェーンの関係で左足が疲れる問題もありました。


 ぶり縄にご執心の仙田くんと住田くん。二人とも地上8~10mも楽々クリア。

    約15mほどある麻縄を振り分けます。ぶり縄の名の由来がこの縄の振り分けにあります。


 ラダーで登る、河野式で登る。 登り方は人それぞれ。

   人海戦術の効果で多くの立木の枝打ちが完了しました。


 ラダーを一本しか使わない枝打ちでは、枯れ枝打ちしかできません。

  しかしこれも役割分担。 下の方しか出来ない人はそれなりに、上の方まで行ける人は上方を
   自分なりの方法で枝打ちに取り組んだのです。


 仙田くんは林縁部の枝の多いヒノキに登り枝打ちをしました。

  今日は何本登ったろうか。 きっと明日は腕も足も相当な筋肉痛が襲うはず。


 下の写真の中央が与作で登る女子学生の松本さん、左上はぶり縄で登った住田くん、
右下はラダーで登りつつある小森くん。 住田くんの高さは地上10mです。


 現場での作業が終了したら全員で整理体操。

  手首、足首、体のいろいろなところをほぐして、帰路についたのです。 

   みんな、「お疲れさん」。
 
以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。

2015年1月28日水曜日

林業再生講座のコロキウムで安全作業を考える。

『 3.11後 の林業 そこから安全を考える

 



 

 

  

 














 東日本大震災による林野関係の被害は3,956ヶ所(1,065ha)に及んでいます。

 東北地方の岩手・宮城・福島の3県は、震災後の林業産出額が減少し、特に福島県は41%も
減少しています。

 その減少はきのこ生産やきのこの原木生産、木材生産の減少として大きく現れています。

 こうした内容を林業再生講座1年生の飯嶋、遠藤、下西、黒木、松葉、中新井の6名が
紹介しました。



 福島県について見ると、原発の影響で除染対象となる「年間被爆量1ミリシーベルト以上」を
記録する民有林18万3千haのうち、平成25年度までに間伐除染が完了しているのは1千haのみ。

 アカデミー12期生で、福島県いわき市の林業事業体に勤務する渡邉篤慶さんに、
   「震災に伴う特別な作業はありますか」と聞くと、
          「いわき市はセシウムが基準以下なので作業に影響はない
          「しかし、震災後は枝葉や根株の持ち出しが禁止でチップ利用材が減少」と回答

   「労働災害や非安全行動の対策は何か」と聞きと、
          「林業未経験者はベテランと行動を共にし、指導を受ける
          「毎日、KYミーティングする
          「資格取得を含む研修会への参加」と回答。


加えて、渡邉さんから、
 「何事にも安全・安心に作業できるよう安全と危険予知について話し合うことが重要
                                          とのアドバイスがありました。

 そこで、学生達は作業するグループに分かれて、「安全のために何をすべきか」を話し合い。


 そして、作業のために演習へ

  演習林では本年度の皆伐地と来年度の皆伐予定地の境界で、お祓いをして作業開始。

 約80人が、伐採地の地拵え、伐採前の除伐、周囲測量、立木調査、作業路補修に分かれて
 作業です。


 地拵え班は富井さんと黒木さんを中心に、枝葉を筋状に地拵えして春の植林に備えます。

 多くがヒノキの枝葉ですが、湾曲しているため切断するのも考えて実施しないと危険です。


 測量班は、飯嶋さんと竹川さんが牛方式ポケットコンパスで指導。
   来年度皆伐予定地周囲を測量して、林分材積を計算する基礎とします。



 林分調査班は遠藤さんの指導で、来年度皆伐予定地の立木を毎木調査です。

 花村くんが直径巻き尺をあてて、そのデータを松原くんが記録する。チームワークが重要。



 除伐班は中新井さんと下西さんの指導で、アラカシやサカキ、ヒサカキを伐採しました。
除伐前とは見違えるような林分になりました。


 作業路補修班は松葉さんと笠木さんが中心となって、丸太を組んで積み上げ、法肩補強を
実施しました。
 ここは少し谷地形になっており、湿ってぬかるむため握り拳大のチャート岩を入れ込んで
パワーショベルで突き固めました。


 さて、作業を終えて、飯嶋さんが本日のコロキウムについて、熱く語りました。

 『段取り八分の仕事二分』で取り組んだはずのコロキウム、参加した学生たちの反応は
どうだったのでしょうか?


 さて学生は、演習林での作業から福島県の林業について何を想像できたのでしょうか?

 東日本大震災の事実を風化させないためにも、このコロキウムは良い内容であったと
感じるのです。

以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。

「里山インキュベーターのすすめ」エコツアーカフェTOKYOを開催します


「エコツアーカフェTOKYO」という場で、森林文化アカデミーの取り組みを紹介します。
2月10日(火)19:00~20:30 日本エコツーリズムセンター(西日暮里)
話題提供:嵯峨創平(岐阜県立森林文化アカデミー 教授)
        ハイテクだけじゃない、ローテクでも凄いんです!! 「里山インキュベーターのすすめ」
詳細案内とお申込みは、日本エコツーリズムセンター(担当:井上さん)まで

当日は、森林文化アカデミーの現地現物主義の実践教育としてクリエーター科の全体像(林業再生、木造建築、ものづくり、山村づくり、IP環境教育)とともに、アカデミーの起業家育成教育の目玉である「里山インキュベーター」の準備活動や教育システムについても紹介します。

岐阜県内でも、ご関心ある方々に向けて「里山インキュベーターのすすめ」出前講座(無料)も実施していきたいと思っていますので、どうぞご相談ください。(担当:山村づくり講座・嵯峨)


2015年1月27日火曜日

長野県の「環境福祉」の現場を訪ねて


山村づくり講座2年生の「コミュニティデザイン総合演習」では、学生自身が関心あるテーマを持ち寄り、共通テーマを設定しながら、ゼミ形式の授業やフィールド実習を行ってきました。

今年度の共通テーマは「環境福祉」です。山間集落で「いきがい農業」として伝統野菜を作り続ける高齢者を訪ねたり、「リワーク」をキーワードに都会生活で受けたストレスを農林業体験の中でリフレッシュしてもらう体験プログラムを実施したり、都市部に残された憩いの場としての「都市緑地の効用」をフィールド実習で探ったりしてきました。環境と福祉の相互作用を考え、両者の統合を図るという「環境福祉」の考え方に少しずつ迫ってきた私たちは、最終回の授業で長野県の先進事例を訪ねました。


1日目(1月25日)、天竜川が削った河岸段丘地形や、雪をかぶった中央アルプスの山脈、そして一面のリンゴ畑が印象的な、松川町、中川村を訪ねました。松川町では「森林セラピー基地」に指定されている松川渓谷「およりての森」を歩きました。冬期とあって森閑とした雪景色の「散策コース」をザクザクと足音を立てながら歩いていくと、身も心も清浄になっていくようでした。


次にお訪ねしたのは中川村のNPO法人信州伊那自給楽園が運営する「アグリセラピー講座」という新しいプログラムです。本来は6ヶ月程度かけて「自然栽培」農法を体験しながら、自己をみつめるワークを軸に「自分を自分らしく生きる」ことを目指すプログラムで、その効果はストレス耐性(SOC)などの指標で測定していきます。


今回は2日間の試行プログラムの最中にお邪魔して、アグリセラピーの発案者である講師の福本裕子さん(臨床心理士)と運営団体の小林正明さん(NPO伊那里イーラ事務局長)にお話を伺いました。お二人とも、都市部の生活者が抱えるストレス問題と、田舎の農的環境や人的資源を結び付けて、「新しい里山の英知」を創っていくことに意欲的でした。私たちも大いに刺激を受けました。

 参照)NPO法人オーガニック・ライフ・コラボレーション
      NPO法人伊那里イーラ「信州伊那里 自給楽園」



2日目(1月26日)は、佐久市の「佐久総合病院」を訪ねて名誉院長の夏川周介先生からお話を伺いました。佐久総合病院は「地域医療」のトップランナーとして余りにも有名です。戦後すぐに「農民とともに」を標榜して農薬被害などの農民の健康被害の改善、婦人や子ども達の栄養指導や疾病予防、集落を巡回して集団健診を行った結果を「集落健康台帳」にまとめて予防医学の基礎データにするなど、日本初の先進的な取り組みを70年にわたって続けてきた東信地域の中核病院です。


当時の若月俊一院長はアイデアにも優れていて、農村部では"お医者様への遠慮や警戒心"が強かったため、病院内の医師と看護士を集めて演劇部を結成し、集落を訪れると先ず「健康講話」という名のお芝居を演じ、住民がそれを楽しみに集って笑った後で、健康診断を始めるといった方法を採っていたそうです。


夏川先生はそうした「農村医療の歩み」の実体験とともに、自ら携わってこられた近年の「医療・福祉・保健の連携システム」の推進;往診専門の診療科「地域ケア科」の設置と在宅医療の推進(S63~)、ドクターヘリの配置(H17~)、先端医療の新拠点となる佐久医療センターの整備(H25)などについても語ってくださいました。その基本的な姿勢は「医療・福祉・教育こそ地域づくりの基礎である」という揺るぎない信念です。地道な努力の積み重ねと柔軟な発想法に私たちも大いに学びたいと思いました。



岐阜から長野県をぐるっと回って2日間で650キロを走破した研修旅行でしたが、それだけの価値ある多くの学びを得ました。学生それぞれの糧にしてほしいと思います。


記: 山村づくり講座 教員 嵯峨創平

アメリカの大学で木造和船づくり!〜こんな実習をアカデミーでも

まずは写真をご覧ください。美しい木造の和船です。これを作ったのは、アメリカの大学生たち。そして教えたのも、何とアメリカ人の船大工です。

ダグラス・ブルックスさん。帽子のロゴにも注目。
ダグラス・ブルックスさんは、アメリカ・バーモント州在住の船大工であり和船の研究者です。これまで5人の日本人船大工のもとで和船の技術を学び、日本各地の和船の調査も行ってきました。森林文化アカデミーでも講義をしていただいたことがあります。

 日本の船大工は平均年齢が70歳以上とも言われ、技術の継承が危ぶまれています。長良川でも鵜飼漁をはじめとして和船が使われており、何とかしたいと思っているところです。そんな折、ダグラスさんがこの実習記録を送ってくれました。いずれこんな実習をアカデミーでも、との思いから紹介します。

 この実習が行われたのはバーモント州のミドルベリー大学。1月に「January Term」と呼ばれる集中授業があり、外部の講師が招かれるのだそうです。ダグラスさんは以前もこの大学でアメリカの伝統的な木造船づくりを教えていますが、今回は和船です。毎週4日、4週間の集中授業です。

 制作したのは、京都府の保津川の鮎舟と、岩手県の気仙川の川舟です。保津川の鮎舟は、ダグラスさんが2014年に京都府亀岡市で鮎舟をつくるワークショップを行なっており、その際に自ら寸法を調べ図面を引いたもの。気仙川の川舟は、和歌山大学の教員・学生が岩手県の船大工を訪ねて調査を行なった際に得た図面をもとにしているそうです。
その他に、ツヅミとかチギリと呼ばれる木片で板をつなぎ合わせるなど、日本の他の和船にみられる技術も盛り込んでいます。

 森林文化アカデミーには、車で30分以内のところに2人の現役の船大工さんがいます。1人は80代、もう1人は50代。今ならその2人から和船づくりを学ぶことができますし、記録を取ることも可能です。またそのような活動を通じて、学生の中から和船づくりを担う人が出てくるかもしれません。ぜひ実現させたいところです。

 なお和船技術の継承については、森林文化アカデミーが事務局となって全国の和船関係者を結ぶメーリングリスト「和船ネットワーク」を運営しています。まだ開設して1年ですが、全国で40人近い船大工や和船関係者が登録しており、情報交換が始まっています。関心のある方は登録しますので、ぜひご連絡ください。
→和船ネットワークお申込みフォーム

材料はノーザン・ホワイト・シーダーとホワイト・パイン。

舟釘は地元の鍛冶屋に作ってもらったもの。

土佐和船の会の芝藤敏彦さんが提供した舟釘をもとにしている。

板と板をぴったり接合するための「すり合わせ」の作業。

チギリ、ツヅミなどと呼ばれる木片を制作している。

沖縄のサバニ船などにみられる技法。

舟釘用の穴を開けている。

板どうしの接合面を金槌で叩いて圧縮しておく、「木殺し」と呼ばれる作業。

チョウナで板を削る。

日本式の祈りも教わる?

ノコギリですり合わせているところ。こうすることで2枚の板がすき間なく接合する。


板に反りをつけるために、つっかい棒で固定しながらの作業。

日本のカンナで削る。

完成!