2012年7月10日火曜日

岐阜県「施業プランナー 技術維持研修」第一回開催

 第一回開催 岐阜県では本年から、過去に施業プランナー研修を受講した方々の技術研鑽と維持を兼ねた「施業プランナー技術維持研修」を開催することとなり、今回、8名の研修生と4名の准フォレスター候補生を迎えて第一回目の研修を実施しました。

今回は江戸時代から280年続く中原林業の代表であり、岐阜県林業経営者協会会長でもある中原丈夫さんの森林を中心に、森林文化アカデミーの横井教授による「将来を見据えた森林施業」についての講義の二本立てでした。

ちなみに中原さんは専業林家であり、極東森林開発株式会社の代表取締役、山県市森林づくり会議議長でもあり、岐阜県の「健全で豊かな森づくりプロジェクト(通称、森プロ)」に、いち早く平成19年から取り組まれた方でもあります。

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最初は「将来を見据えた森林施業」について横井教授の講義です。

研修の目的は4つ
  (1)知識・情報の習得
  (2)技術・スキルの習得
  (3)問題解決能力の向上
  (4)行動・態度の変容

今回の研修は「自らが気づき、考えること」で、行動・態度の変容を遂げることです。

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研修生は過去に受けた施業プランナー基礎研修のことを思い出しながら、「作業=施業」ではないこと。「林業経営を考える」ことの意義を認識すること。「森林施業」にも理念・哲学は必要であること。など、横井教授からのメッセージを受け止めて行きます。

施業プランナーに「必要な力」は山のあり方、取り扱い方を空間的にかつ時間的に「デザインする力」です。思い描いたデザインを「プランニング」する。

「施業プラン」であるなら、将来の山の姿(目標林型)とそこに至る道筋を示し、それを実現するための作業として、今回の間伐を提案する。

目標が設定されていないと、
「持続可能な林業(経営)」が成り立たない

「優れた経営に学ぶ」のは「真似るために学ぶのではない」、「考え方を学ぶことに意義がある」・・・・これは重要なメッセージです。

そこで今回の中原林業さんの事例を紹介
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中原林業の生産目標はスギ・ヒノキの優良大径材。伐期は80~90年、立木密度580~630本/ha、平均胸高直径40cm、下刈り6回、枝打ち2回、除伐2回、切り捨て間伐1回。3回の利用間伐を経て主伐に。現在は皆伐から漸伐/帯状の区分皆伐への転換を模索中。

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横井教授の講義が一段落してから、中原さんも一緒に参加して下さって、中原林業が江戸時代から蓄積した経験に基づく経営感覚を実現することで、健全で災害に強い森林づくりにつながっていることなどを説明されました。

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午後からは中原林業所有山林のある椿洞に向かいました。 最初の現場は中原さんが請け負った間伐施業地です。谷を挟んで右と左の太陽の当たり方、降り積もった雪の影響、吹き付ける風の影響などを加味して、間伐した経緯を説明されました。

ここでは「山の間伐は間伐し過ぎによる荒廃はないが、伐り控えによる荒廃はありえる」と、補助金をもらうためのみを考えた間伐本数の少なさによる危険についてふれられました。

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次ぎに行ったのは、道路沿いの皆伐地、ここは皆伐2年後で斜面下部にはトチノキがその他にはヒノキが植栽されています。

中原林業では今でも、定期的に小面積の皆伐を実施している。これは大径木の皆伐技術や枝打ち技術を技術伝承するためでもある。また、所々に大径木を残すのは、過去の履歴(過去にあった立木の状態)を後世に伝えるためでもあります。

中原林業では丁寧な雪起こしをすることで、根元曲がりの少ない良質材を生産しており、これに枝打ちを2回組み合わせることで、より良質な木材生産を目指しています。特に積雪地では雪の沈降圧によって幼木の下枝が引っ張られ、根元が曲がりやすくなるため、初期段階での枝打ちを重視している。

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この写真の下にあるのは35年生のケヤキ人工植栽木です。中原家にある優良ケヤキの実生苗を谷筋に多数植えて、その経緯を観察されておられるそうです。森づくりを急がず、樹木の成長に合わせた時間軸で見ておられる中原さんの考えを述べられました。

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次の林は谷を挟んで28年生と29年生の林の比較です。片方は4~5m高まで枝打ち(2回)をした林で、幹の肥大成長は旺盛であるため中間収益は、もう一方に比べると15~20%多く得られると考えられます。

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他方は約7m高まで枝打ちされた林で柱取りを考えている。中原林業では枝打ちは樹齢25年生以内に終了することとしており、2回で4~6m高までの枝打ちを考えている。

枝打ちは最初はナタ、熟練すればカーツカッター(動力式枝打ち機)によっているが枝打ちで最も必要な能力は樹上で作業できることです。

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中原林業では、350本/ha程度の長期育成循環林の樹下に斜面下部からトチノキ、クリ、スギ(秋田スギ)を植栽して試験を実施している場所もあります。

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最後に見せて頂いたのは中原家の90年生「伝承林」です。ここも谷部にはトチノキが植えられ、最近の伐採でも下層木の損傷は全くない林分でした。これは技術伝承にこだわり、山に対する情熱のなせる技なのでしょう。

中原さんは、「山は倉庫である。現在の在庫がどのような状況で、期限以内にクライアントが欲しい木材を納品できるようにすることが重要である」と、林業に欠けているQCDについて述べられました。

山づくりのための選択肢と正解はいくつもある。山は多様であり、その山の施業にはいくつもの正解がある。それを常に考えて、多様な施業をすることが林業経営でもあるのだと、感心しているうちに午後の5時となってしまったのです。

今回も中原さん、横井さん、技術維持研修のために、貴重な時間熱いメッセージを有り難うございました。今回得られた知見を少しでも活かし、自分たちなりの考えで山と向き合えるよう頑張ってきたいと感じました。

以上報告、ジリこと川尻秀樹でした。