2014年2月16日日曜日

明宝中学校「聞き書き集<1>」の完成に思う ― 聞き書きのアクチュアリティ



ここ数年、「聞き書き」が熱いなぁ…と感じています。最も知られた活動は「森の聞き書き甲子園」毎年全国の高校生100人が森・川・海の名人100人を訪ねて聞き書き作品を作る活動だと思いますが、「聞き書き」を基礎にしてその先へ繫がる活動が、各地で始まっているように思います。 


森林文化アカデミーでは山村づくり講座の原島先生が中心となって「山里に聞く」という聞き書き実践の授業を続けてきましたが、25年度は私自身も郡上市明宝のプロジェクト授業のなかで「聞き書き」に取り組みました。 


 

明宝中学校の2年生19名を対象に、総合学習の時間を使って、6月から8月のお盆前まで4回にわたって、聞き書きの入門講義、準備ワークショプ、地元のお年寄りへの聞き書き、文字起こし原稿の編集ワークショップを行いました。この授業にはアカデミーの学生も15名ほどサポートに入りました。その作業の成果が、明宝のNPOななしんぼの編集者の仕上げを経て、『中学生聞き書き集<1> 奥美濃よもやま話 明宝中学校版』として刊行されました。第1集には明宝で生きてきた7名の方の暮らしや仕事の思い出、中学生に伝えたいメッセージが詰まっています。この文集には、単なる「聞き書き」という作業に止まらない、"地域の文化を伝えたい"という周りの大人達のサポートも、見えない形で凝縮されているのだと思います。


25年度は明宝の活動と並行して、下呂市馬瀬で「里山ミュージアム」の基礎調査も行いました。この中でも、集落を歩いて地元学ワークショップを行い、個別に「聞き書き」を行い、その成果を「ふれあいマップ」という形にまとめています。「聞き書き」でお聞きした個人のライフヒストリーや、人と自然のかかわりのエピソードを、より広く共有するツールへと発展させる試みの一つだと思っています。


海外で広く行われている「デジタル・ストーリーテリング(DST)」という活動も、同様の可能性を秘めています。これは個人が伝えたい物語や出来事を短いシナリオに書き起こし、それにスライドを付けて「電子紙芝居」のような形にする活動です。ここで重要なのは、シナリオを書き始める前に行うストーリー・サークルと呼ばれる「語り合いの場」であり、完成したスライドを発表して語り合う「物語共有の場」です。


畑ちがいのようですが、つい最近私自身が参加した「戯曲づくりのワークショップ」でも、思いがけず「聞き書き」や「個人史年表」を基にした戯曲づくりの方法に出会いました。個人の記憶を再構成して作品化し、それが役者の身体を通して語られることで、年表の行間にある葛藤や変化にまでイマジネーションが膨らみ、舞台と観客の間に複雑な響きあいが生まれて、一回性の「場の力」が発生することを体験しました。
 

もともと「聞き書き」には長い伝統があり、人類学や民俗学の[調査]として行われてきたもの、戦争体験や女性史を掘り起こして[記録]する歴史運動的なもの、さらに[文学]としての聞き書き作品や戯曲まで、さまざまなスタイルがあります。でもそこに共通するのは、個人史をていねいに聞き取ることで見えてくる時代や空間のリアリティ、それらが集まった時に生まれる共感や繫がりの力を信頼する姿勢ではないでしょうか。「聞き書き」活動の積み重ねから、調査と文学の間に位置するような、それぞれの暮らしの場から立ち上がる「私たちの物語」の可能性が見えてくるような気がしています。 



山村づくり講座 教員 嵯峨創平