私が訪問したメイン州はアメリカ東海岸の北端で、カナダに隣接しています。かつて氷河が削ってできたと言う数多くの湖、川、入り江があり、あちこちにボートやヨットが係留されています。人々が船に親しむ暮らしを送っていることが実感できました。
この船づくりの技術を継承するとともに、船づくりを通じて若者を育てたいと考えて学校を設立したのが、ランス・リー Lance Lee さんです。自らも幼少時から船に親しみ、船づくりに携わってきた彼は、手を動かしてものをつくる実践的な活動こそ最良の教育であると信じています。Apprenticeship(徒弟制)とWorkshop(工房)をかけて、1972年にアプレンティスショップ Apprenticeshopという学校を始めました。
(ブログではうまく表現できませんが、このランスさん、船づくりと人づくりについて目を輝かせて生き生きと語ります。思いを実現させるすごい情熱を感じました)
現在はランスさんは経営から退き、ケビン・カーニー Kevin Carneyさんが学校を率いています。教員は彼1人で、ほかに非常勤のセイリング担当が1人、管理業務が1人です。
学校は2年制で、毎年4人程度が入学してきます。1年目で修了することも可能です。1年目の授業料は18000ドル、2年目は9000ドル。2年目が安いのは、1年生を教える立場になってもらうためだとのこと。(森林文化アカデミーでも一部の授業で2年生が1年生を教える実習がありますが、人を教えることで自らの学びがより確かなものになります)
ほかに12週間の短期コースもあります。こちらは6000ドルで材料費も含まれており、1艘制作してその船は自分のものになります。
上の写真は工房内の様子。学生はこれまで16歳から70歳まで入学してきたそうですが、もっとも多いのは20代後半とのこと。20年程前に日本人も1人受け入れたことがあるそうです。
12週間コースの学生が作っている船。3.4メートルほどのスーザン・スキフと呼ばれる手漕ぎの船です。この船は完成後、学生が持ち帰ります。
こちらは2年制コースの制作する船の実例。2年制コースでは年2艘ほどを作り、完成した船はすべて販売します。その収益が学校運営に充てられる仕組みです。これまで最大で12メートルほどの船も制作した実績があるとのことでした。(長良川の鵜匠が乗る鵜飼舟が13メートルですから、それに近いサイズです)
新造船だけでなく、1度は改修も経験させるようにしているそうです。こちらは寄付された古い船を学生が修理したもの。2万ドルで売りに出されています。
2年制コースの実習風景です。学生たちは船の制作だけでなく、操船技術も学びます。近くの島へ渡る数日間の航海も行うそうです。
1972年の開学からこれまでに約400人の卒業生を送り出し、その半数以上が船に関わる仕事に就いているというのはすばらしい実績です。
長良川の木造の鵜飼舟や漁船を作る技術も、このままでは継承できなくなってしまう恐れがあり、新しい仕組みを考える必要があります。しかし川に漁業者が少なくなってしまった今、船や水に親しむ新しい文化そのものも作っていかなければ、船の需要も生まれません。日本の海や川に、木の船がたくさん浮かんで人々が操船を楽しんでいる光景を想像しながら、森林文化アカデミーにできることを考えていこうと思っています。