この時期はきれいな紅葉や黄葉を探して写真を撮るのが楽しみな時期でもあ
ります。この季節が過ぎると一気に葉は落ちてしまい、本格的な冬の季節が
訪れます。今は紅葉と冬枯れの狭間という感じかもしれません。
この時期暗い照葉樹林を歩いていると、ときどき足元がぽっかりと明るく
なることがあります。見上げてみると、たいてい大きな落葉広葉樹の樹冠が
林冠の中に口を開けています。色が黄色くなった葉っぱや、葉の落ちた空間
から日が差し込んで林床が明るくなるのです。
神社の社叢林を歩いていたら、そんな感じで林が少し明るいところがありま
した。地面をよーく観察すると、おかしな形の実が落ちていました。ムクロ
ジの実です。ムクロジは照葉樹林に混じって生え、大木になる落葉樹です。
黒くて堅い種子は、羽根つきに使う追い羽根の玉にしますし、果皮はサポニ
ンを多く含むので、泡を立てて洗濯や洗髪に使ったそうです。
あたりを見回すと、ささくれ立った感じの樹皮が目に入りました。実を落と
した主の木です。胸高直径を測ってみたら58.7cm! 周囲長でいえば184cm
です。私の腕ではとても抱えきれません。立派な大木です。
私が知っている自生のムクロジの木は、ほとんどが照葉樹林に生えていま
す。それも、面積が大きく、昔から人手が入っていないような立派な林に多
いように思います。ムクロジの分布範囲は関東地方より南、国外では台湾・
中国、インドシナからヒマラヤにかけての照葉樹林域です。ムクロジは、そ
ういった照葉樹林を構成するカシ類やシイなどの常緑のメンバーと一緒に日
本列島に渡ってきた植物のひとつなのではないでしょうか。
アカデミーの近くにも、たくさんの実をつけているムクロジの木がありま
す。この木の生えているところは照葉樹林ではありませんが、すぐ横に祠が
あり、近くにはカシの林もあるので、照葉樹林を伐採したときに伐らずに大
切に残した1本ではないだろうか、などと想像しています。
身近な自然にも、このムクロジのように、昔の林を想像させる手がかりのよ
うなものが潜んでいます。目の前の林をただみるだけでなく、色々な手がか
りを元に昔の林を想像しながらみてみると、おもしろいですよ。