2013年6月25日火曜日

ゴッホの椅子を追いかけて〜飛騨・高山編

ゴッホの椅子を追いかけて〜前編京都・美山編からつづく)

森林文化アカデミーでは毎年、飛騨の家具メーカーの職人さんを対象に、グリーンウッドワークの短期技術研修を行なっています。高い技術を持つ業界からの研修依頼にはじめは驚きましたが、「人力で生木を削るグリーンウッドワークで椅子づくりの原点を学びたい」とのお話に、森林文化アカデミーらしいお手伝いをとお付き合いが始まりました。もう4年目になります。


今年は2つのテーマを持って臨みました。ひとつは「ゴッホの椅子」を作ること。前回の記事にも書きましたが、日本初の木工芸の人間国宝となる黒田辰秋氏が飛騨産業で皇居・新宮殿の椅子をつくるにあたり、はるばるスペインまで椅子の源流を訪ね、ゴッホの椅子づくりを見学しているからです。

もう1つは、里山の小径木を生かすこと。美濃市の雑木林の木を椅子づくりに使ってもらうことにしました。いま飛騨のメーカーで使われる木の大半は海外のもので、このような身近な里山の木が使われることはないのです。伐採は、この森を生かす活動に取り組む「山の駅ふくべ」のメンバーで、森林文化アカデミー卒業生の藤井伊男さんにお願いしました。



6月16日と23日に行われた研修には、飛騨木工連合会に属するメーカーの職人さんやデザイナーのみなさんが参加してくれました。冒頭、ゴッホの椅子にまつわるエピソードを1時間のスライドショーにまとめ、ご覧いただきました。これまでの調査で、日本にはじめてゴッホの椅子を紹介したのは陶芸界の人間国宝・濱田庄司氏であることが分かっています。

「世界の民芸」(濱田庄司・芹沢銈介・外村吉之介著)より

また、黒田辰秋氏がスペインで自ら撮影した8ミリフィルムの映像もご覧いただきました。

雑誌「民藝」177号より

そしていよいよ制作。2人で1脚の椅子をつくることにして、1日目は丸太を割って各部材を削るところまで。2日目は穴を開け、組み立てて、縄で座面を編みます。講師は私のほか、NPO法人グリーンウッドワーク協会の小野敦さん、加藤慎輔さんが務めてくれました。


丸い穴に四角い部材を生のまま叩きこむ、というのがゴッホの椅子づくり。その豪快さは、ふだん緻密で繊細な仕事をする職人さんにはカルチャーショックだったようです。「こんなので本当に大丈夫なの〜?」とおどけて疑いの目を向けるのは、飛騨木工連の技能開発委員長でこの研修の担当者、柏木工の沢田さんです。



座面の編み。本物はガマの葉を撚りながら編んでいますが、今回はイグサの縄を用いました。


作業の速さはさすが職人さんたち、ほぼ1日半でゴッホの椅子が完成しました。今回の研修会場の隣には家具づくりの歴史を紹介するミュージアム飛騨があり、そこに皇居・新宮殿の椅子の試作品が並べられています。この椅子の前で記念撮影をしたい!というのがもう1つのテーマでした。黒田辰秋氏と当時の職人さんたちに思いを馳せながら、パチリ。


参加してくれた職人さんからは「飛騨の家具の歴史の一端に触れられてよかった」とか「この活動を社内でも広めていきたい。森の手入れからやりたい」と感想をいただきました。過去と現在がつながり、さらに未来へと広がりを感じさせてくれます。


今回の成果は、9月に行われる新作見本市「飛騨の家具フェスティバル」で展示される予定です。お楽しみに!