2014年1月20日月曜日

生きた樹の内部まで覗いちゃいました。音響波ドクターウッズによる危険木診断

目視による危険木判定と音響波ドクターウッズによる内部診断



 森林文化アカデミーの短期技術研修で「目視による危険木判定と音響波ドクターウッズによる
内部診断」を実施しました。この研修は造園と樹木医のCPD(継続研修)にも位置づけされてい
ます。

 講師は、「目視による危険木判定」はJIRIが、ドクターウッズによる危険木判定は長野の文吾林
造園の原孝昭樹木医富岡裕樹木医が、そして美濃市での事例紹介としてグリーンドクター3A級
近藤肇グリーンドクターがそれぞれ務めました。

 危険険木として注意すべきものには、1.早生樹、2.浅根性樹種、3.移植して間のないもの、
4.周辺環境が変化したもの、5.木肌に変化が見られるもの、6.老齢・腐朽・害虫被害のもの
などがありますと、最初にJIRIから事例紹介。


 日本には街路樹だけでも約670万本あると推測されている。
  2004年には多数の台風が襲来
  ②そのとき、国交省・沖縄総合事務所・都道府県・政令指定都市が管理する道路での街路樹の
   倒伏などの発生数は、 約24,000


 2003(平成15)8  国立公園奥入瀬渓谷(青森県)を散策中の女性が 突然落下して
きたブナの木の枝の直撃により重い後遺障害が残り、散策路を管理する国と 県の過失(管理
の瑕疵) に対して、1億4885万円の賠償支払い命令が下った
 

 また、2012年11月18日には大垣市で森林学習の女児が、長さ3m、直径5cm、重さ

約5kgのスギ枝の直撃を受けて、残念なことにお亡くなりになった。
 
 危険木の判定は単に「倒伏」だけでなく、こうした不幸な事故を起こさないためにも、
重要な項目であることも講義。

  

  また、ドイツのMattheck(マテック)博士のVTA(Visual Tree Assessment)についても、写真事例
などを基に解説。 午後一番には簡単な実物説明も実施。
 

 途中、近藤グリーンドクターより、美濃市の「長近のマツ」の危険木診断について解説。
一見すると元気そうなクロマツがの微妙な変化を観察し、それをどのように診断し、その原因は
何で、結果どうしたのかを時系列に説明してもらいました。



 下の写真で、クロマツは約15年ほどかけて、左に徐々に傾いてきました。毎日見ている人には
なんの変化も感じられませんが、15年ほど前に右側の道路面を掘って工事したときに、根系の
損傷が促進したことや、幹の左側に圧縮アテが確認されたことなどを説明して下さいました。
 
 
 長近のマツは最終的に、人命第一に伐採されましたが、根元は下の写真のように 腐朽が進行し
ていました。また、子孫を引き継ぐ実生苗の養成と、栄養繁殖も同時に試みられています。
 
 
 
 午後からは、 原樹木医と富岡樹木医による音響波ドクターウッズによる内部診断です。
最初に、原さんがドクターウッズの特性や測定方法など、従来の内部診断機械と何が違うのかを
詳しく説明されました。 
 ドクターウッズでは、内部の強度を示すだけでなく、音響波の音速断面図(等分布図等)まで見
られる点が、これまでの機械と大きく違います。
 

  また、実際に富岡樹木医が「小黒川のミズナラ(国指定天然記念物)」の診断した事例について
も詳しく説明を受け、診断に基づいた対策にまで踏み込んだ解説にまで及びました。
 

 実際に、アカデミーのコテージ群にあるソメイヨシノで調査。

 原樹木医さんのご提案で、「機械にだけ頼るのではなく、木槌などでの打撃診断で内部を予測
して図化し、その後にドクターウッズの結果と照らし合わせる」こととなりました。

 これは良い提案です。


 打撃が終わったら、音響波の端子を16本幹に差し込みます。
それぞれの端子が1本づつ音響波を順番に出して、それぞれ残りの15本が音響波を受け取り、
それを順に解析していきます。


 最初のソメイヨシノは下の写真の右側(棒グラフ)を見ると、数値の小さい弱い部分が多くあり、
強度があまり無いことが分かります。大変危険な状態です。

 
 次に、自然木であるコナラを測定してみました。このコナラは3年前にカシノナガキクイムシに
加害されましたがなんとか生き残っている ものです。
 多くの人が、「この木は健全そうだけど、なんで測定するの?と疑問視される中、半分強引に
ドクターウッズで診断してもらいました。


 こちらも16本の端子を装着して、測定開始です。静寂の中、音響波の「シュー」という音が小さく
響きます。


 なんと、このコナラは赤い部分が、弱くなっていることが判明しました。
この部分は、古い枝折れやカミキリムシの穿孔跡などから腐朽が進行していると考えられます。


 最終的に、取得したデータを講義室に持ち帰り、それぞれについて判定をしました。
下の写真はコナラのものですが、測定部位は芯に腐朽の心配はあるものの周囲の強度は充分
なので、この断面からは倒伏の心配は少ない。

 ただし、根株からの倒伏をしっかり調べるためには、レジストグラフなどとの併用による詳細な
診断が必要となる。

 
 今回は30人を越える申し込みがあり、岐阜県内はもとより、遠くは東京、山梨、石川、長野、愛知
からも参加者来られました。
 講師の原孝昭樹木医さん、富岡裕樹木医さん、近藤肇グリーンドクターさん、有り難うございまし
た。、
 以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。