山村づくり講座1年生の「エコミュージアム概論」で京都市伏見区を訪れました。伏見と言えば、伏見稲荷、酒蔵のまち、龍馬襲撃の寺田屋事件など…歴史文化の観光資源には事欠きませんが、今回お訪ねした「伏見まるごと博物館」の活動はひと味違います。
京都市内11区のうち伏見区は28万人の人口を擁する最大の区です。戦国時代末期に豊臣秀吉が築いた伏見城の門前町として栄え、伏見稲荷の門前町としても賑わいました。また京~大阪を結ぶ淀川水運の要衝として商工業も盛んでした。そんな歴史から「伏見は京都とは別のまち」という意識が地元っ子には根強くあります。現に昭和4~6年の短期間ではありますが「伏見市」という独立した自治体でした。
そんな背景をもつ「伏見まるごと博物館」の活動は、3年前(2012年)に始まりました。市民活動をベースに住民主体でつくるエコミュージアムを目指して、15人の「まる芸員会」を中心に、いわゆる観光名所や文化財ではない「生活者の目線で残したいまちの記憶」をガイドツアー、手づくり展示、上映会、シンポジウムなどの多彩な活動で発信しています。事務局が伏見区青少年活動センター内にあることから、これらの「まちの記憶」を「平成生まれの若者・青少年に伝える」ことも意識しています。
こうした「伏見まる博」の理論的な側面を支援しているのが京都市まちづくりアドバイザーの加藤ゆうこさん、まる芸員会の代表であり実践活動の中心となっているのが地元商店主である北澤雅彦さん、そして事務局として裏方を支えているのが伏見青少年活動センター所長で京都市ユースサービス協会の職員である石指温規さん。こうした住民と専門家と行政の絶妙なパートナーシップが、「伏見まる博」の柔軟性や発信力を支える大きな骨組みだと思いました。
さて、お楽しみの「伏見まる博ミニツアー」に出かけました。といっても、観光パンフレットに載っているような名所はほとんど歩きません。京都文化と一括りにできない伏見ならではの暮らしの自慢や陰の歴史がが、あちこちに点在しています…。ちょっと例を挙げると、
・秀吉の街割りが今も使われている「伏見界隈」
・住宅のホーロー看板に残る「伏見市」の印字
・水運のまちの「運河の面影」
・日常食としての「粕汁」の食文化
・かつての「遊郭」の名残を感じさせる街並
・実はここが発祥!? 佐々木パンの「メロンパン」
・大スター長谷川一夫が通った「外科医院」の跡地
これらの「まちの記憶」を表す無数の場所はモノは、文化財の指定外であり、大きな観光資源にはならないかもしれません。でもエコミュージアムの本質は、地域の暮らしの記憶を伝える場所やモノを手掛かりに「何気ない"地域の遺産"を住民の目線で捉え直し、若い世代や新しい住民へ伝えていくこと」にあると思うのです。
この地道な活動が「まちの気風や景観」を知らず知らずのうちに育てていきます。そうした意味で「伏見まるごと博物館」は正しくエコミュージアムであり、40~50代を中心に"つなぎ世代"を自認する「まる芸員」の方々の活動は、「どこでも・だれでも始められるエコミュージアム」のお手本のような活動だと思いました。
記 山村づくり講座 教員 嵯峨創平