今日は岐阜県立森林文化アカデミーの「森と木のエンジニア科」課題研究発表でした。
1.飴村泰生さんの「ハンノキ林伐採による谷津田放棄田の植生変化」
伐採区では開空度が広くなったことで水温が高まり、植生が豊になり、植生種が別の
ものに入れ替わることも分かりました。また放棄田を掻き起こすことで、南方系植物と
北方系植物の両方が生育できる環境をつくれることが分かった。
2.池井 翼さんの「森と子どもをつなぐ空間づくり」
子どもが主体となってつくるツリーハウスづくりに取り組み、ここで重要なのが大人が子どもの能力を信じること。環境を整えること。子ども自身が積極的に森に関わる
ためにもツリーハウスが有効であった。
3.加藤洋平さんの「関市役所前の街路樹におけるイラガ類の食害」
モミジバフウの街路樹で発生するヒロヘリアオイラガ、ヒメクロイラガの防除法を検討。年2回発生している可能性も見られ、イラガ類が若齢時に幼虫のいる枝を切り落
とし焼却するとか、ヒメクロについては食害木の下につくる繭を除去するのが有効で
ある。
4.亀川侑真さんの「アーボリスト技術を応用した樹木メンテナンス」
アーボリスト(樹護士)技術の習得とそれを応用してエノキに着生したヤドリギ100個体を切除し、アーボリスト技術とぶり縄、ラダー、高所作業車と安全性や経費を比較し
て、その有効性を確認した。
各発表の度に、外来者や学生、教員から質問が出る。学生は四苦八苦しながら、それに答える。
クリエーター科の横内さんは何度も質問をしていました。
型を検索するため169個体の地域栽培系統を解析した。春日地区のものは宇治と同等の遺伝
的多様性があり、遺伝資源的価値が高いことが分かった。
6.清水一馬さんの「竹チップの肥料効果と竹林の管理について」
竹チップは堆肥の温度上昇を促進し、堆肥化し易いことが分かっている。その効果を
ハツカダイコンの成長比較で見ると、チップは小さい方が有効で、市販の化成肥料に遜色
なく効果が高くなった。また竹林面積の1.5倍の畑に肥料を供給できることも分かった。
7.谷口大昴さんの「利用促進を目的としたコミュニティスペースの改善」
コミュニティスペースには実用的機能や修系景的心理的機能があるため保育園でのスペースづくりを試みた。緑ある休憩スペースを設定することで、子どもたちの環境
教育にもつながると考えられた。
8.出口 強さんの「効率的なヒノキの伐根処理方法の検討」
効率的な掘削・根起こし方法を探るため、演習林のヒノキを題材に検討した結果、ヒノキは根が横に張るため、切り株周囲を均一に掘削するのではなく、太い側根のみを切断す
れば良く、また切り株が高い方が堀取り易いことが分かった。
9.富樫 巽さんの「仲介業者を介さない原木流通」
原木を直接取引する際、加工業者側には安価に大量入荷させて選別する場合と、生産者に選別させる方法があるが仲介業者の手数料を省けるだけでも両者にメリットがあり、自
家での木材生産に応用できる取引を模索した。
10.内木翔太さんの「自然への関心を高めるための図鑑製作」
エピソード記憶と意味記憶を結びつけて図鑑をつくることにたどり着き、それを20種の樹木について一般的な図鑑と試作図鑑で比較検討した結果、樹木と人との関わりを体験で
きる樹種はより記憶に残り、かた試作図鑑の有効性が認められた。
11.丹羽 瞳さんの「淡水産紅藻類カワモズク類の生育環境とその分布」
アカデミーの小川に生息するアオカワモズク、チャイロカワモズク、ユタカカワモズクの3種について調査し、水温や降雨が影響し、年に2回の発生が見られることが分かっ
た。また関東の生息分布のように塩類濃度の高い水質環境でなくても生育することが分
かった。
12.羽柴草太さんの「林業と共存する森林空間利用」
涌井学長が言われる“森林空間は木材生産だけの場ではない”を具体的に検証するた
め、冒険の森事業による林業地をアスレチック化する事業を調査。所有者は土地を貸すだ
けでも年間80万円の収入が得られ、もしも体験者多ければ、森林から得られる収益は相当
高額となる。
13.畑中 慎さんの「ヒノキ人工林の材の太さや年輪幅と樹冠幅の関係」
演習林のヒノキの樹冠幅などを測定し、樹幹解析をした結果、樹冠幅が大きくなれば樹冠長も大きくなり、胸高直径が大きくなることが分かった。年輪幅を均一に育てるための
樹冠幅のコントロールを意識した施業の重要性が分かった。
14.東屋憂輝さんの「皆伐放棄地の森林再生の可能性について」
郡上市の皆伐放棄地の現状を岐阜県の“水源地域における森林整備基準”に照らして、広葉樹の天然更新が可能かどうかを調査検討した。広葉樹林が隣接するかどうかよりも、
ササの密度の方が影響力が大きく、また有用広葉樹の更新にはほど遠いことが分かった。
東屋さんの発表に、クリエーター科の黒木さんから質問。学生の説明不足もあり、
質問のお陰で全容が把握できることもしばしば。
15.細江康雅さんの「0.25サイズの林業機械を使った生産性の向上」
南飛騨森林組合で利用されているベースマシン0.25サイズについて、その生産性が高いことの理由を探った結果、高い路網密度(100m/ha)、操作性を重視した機種選定(スト
ローク式)、市場価格を反映させた造材方法の指導が大きく影響していた。
16.松原正哉さんの「ニホンジカ等に対する食害抵抗性スギ品種の可能性」
森林被害の7割を占めるシカの害に対し、食害抵抗性が見られる天然絞品種“雲外と中源
3号”について検討した。一般的なシカ害対策では資材費が多くかかるが、こうした品種を
導入すれば低コストの造林にもつながり、今後有効な品種であると考えた。
17.御船弘巳さんの「森林利用者の緊急時対策のための看板設置」
何の表示もない演習林に緊急対策のための看板設置に向け、視認性などを検討した。消防署の方にもアドバイスを頂き、連絡ポイントの携帯電話電波状況、看板の色合い、夕暮
れや夜間を考えた反射材の有無などについて検討した。
18.山口将吾さんの「和傘ろくろ原料の持続的供給のための森林管理について」
和傘のろころに利用されるエゴノキを継続手に収穫するため、美濃市片知の山の駅ふくべで、伐採後の生育状況を調査。ササの有無、切り株の高さ(高伐り)、皆伐と択伐によ
る萌芽数や枯死株の有無、シカの食害状況を検討し、高伐り皆伐区やササ残し皆伐区が有
効で、切り株は直径10cm以下の方が萌芽数が多いことも分かった。
最後に涌井学長の言葉
今回の課題研究発表は現在日本の森林・林業が抱える問題ばかりであり、そうした意味でも価値のある発表であった。
学長は発表者一人一人に、きめ細やかな好評をされ、学生たちの研究を評価し、明日に
向かって考えるためのアドバイスをされ、その言葉にエンジニア科の学生は皆、胸を熱く
したのです。
今日はエンジニア科のみなさん、疲れましたか?まだ論文の集大成が待っていますの
で、最後まで頑張りましょう。