2015年10月16日金曜日

ニホンジカと戦わずして、林業は成立するか?

野生動物を制御せず、どうやって森林を再生させるか


 クリエーター科1年生の林業再生講座と山村づくり講座の学生が受講する『野生動物管理
概論』 、本日は森林研究所の岡本さんと本巣市根尾や揖斐川町谷汲でニホンジカ(以下、シカ)
とニホンツキノワグマ(以下、クマ)について、現地実習しました。

 ここは広葉樹林を皆伐し、そこにスギを植林した現場。植林して3年以上経っていますが、
最初は葉を食べられていただけであったものが、最近は樹皮を剥がれて、枯れつつある。

 これが現在のスギ造林地の現実。 ニホンジカの食害と戦わずして、林業は成立するのか?


 ここは本巣市根尾のとある林道脇、70本のスギを調査すると50本以上がシカの食害によって
写真のような枯れた部分があり、なんと96%にシカの食害痕を発見。

 下の写真のスギは上部は枯れて、下の方のハイマツのようになった枝が繁茂しているが、その
先端はすべてシカに食べられています。


 尾根筋のシカの通り道になっているところは、樹木も草もすべて一定の高さで食害を受けて
いる。右端の女子学生(森田さん)の右側には小さく刈り込んだようなスギが見られます。

 中央の男子学生(石塚さん)の足下では、コアジサイが刈り込まれています。

 左端の岡本さんの手前は、シカの食圧に耐えている盆栽状になったエゴノキです。

 下の写真は、私たちが調査した広葉樹皆伐地全面。 ここに植えられたスギが全滅に
近い有様なのです。

 なんと、全面にわたってクサギやコアジサイなどが繁茂し、所々にキリが見られますが、
ミズナラやミズメ、ホオノキなどの高木性の広葉樹は皆無に等しい。

 広葉樹林の伐採について、考えるべき場所なのです。 そもそも皆伐すべきなのか?
スギを植林すべきだったのか?  どうやって、もとの山に戻すのか?

 シカの食害現場の近くでは、クマ剥ぎの立木も発見。 クマ剥ぎの特徴は何かを岡本さんから
詳しくお話を聞く。 クマは5月頃に樹皮を剥いで食べる。

 樹皮は大きく剥がれ、木部には3~4筋の10cm長の歯痕が残る。


 こちらはシカの角研ぎ痕、シカは通路に利用する周辺で食餌し、その通り道で角を研ぐ。

これは少し古い角研ぎ痕・・・・などなど、岡本さんの解説は続きます。



 さて、今度は揖斐川町谷汲の現場。 ここではシカがヒノキの樹皮食いしたり、角研ぎする時
のように、樹皮が細かく落ちていました。これは痕跡ですね。

 少し歩いて行くと、その奥にシカの食害痕が見られました。


 ヒノキの林を抜けた上には、人工林の皆伐地が見られました。 

 ここは昨年までヒノキが生えていましたが、現在は伐採されてクサギ畑と呼べるほど、クサギが
繁茂しています。 周辺にはヒノキの稚樹や高木性広葉樹は皆無。 

 多分、伐採業者もシカが多過ぎて、人工造林を諦めざるを得なかったのでしょう。


 もう一度、手前のヒノキ人工林に戻って、シカ避け対策、クマ避け対策を体験。

 幹にタフロープを巻きつければクマ避けになります。 

 ヒノキの周辺の植物もシカの食圧を相当受けています。


 上記のクマ避けに枝葉を差し込むと、これでシカ避けにもなります。 シカは幹の下の方から
ためるため、下の部分に枝葉を差し込むと、加害しなくなります。


 さて、今日はニホンジカの圧倒的な食圧を実感する実習となりました。
 皆伐放棄地が増えるのは問題ですが、造林してもシカの食害に遭えば、放棄地と同じ
ことになりかねない現状にあるのです。

以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。