2015年10月8日木曜日

国内研修「森林と人の関わりについて考える〜黒潮に臨む森林とその利用〜」報告①楠の香る工房を訪ねて

 森林文化アカデミーでは2年生時に「国内研修」という宿泊型の実習があります。この授業では、普段行けないような遠方の森林や林業地、先進事例等を見学し、新たな視点、考え方を得たり、学びを深めることを目的としています。またエンジニア科、クリエーター科の両方がとれる数少ない科目のひとつです。今回はクリエーター科11名、エンジニア科4名の参加で実施してきました。日程は9/29〜10/1の2泊3日、静岡県の函南〜伊豆〜浜松をまわり、温暖な地域で育つクスノキとそれを使った伝統工芸、落葉広葉樹のブナと常緑広葉樹のアカガシが混交する禁伐林、天城峠の森林、他ではまず見ることのできないクスノキ人工林、国産ヒノキにこだわった学習机の生産現場等を見学してきました。以下、学生の報告を5回にわたって紹介して行きます。

1日目(9/29)楠家具製作所(函南町)
 国内研修最初の見学地は静岡県函南町にある楠家具工房でした。細い山道を上がり、農家や畑を抜けた先に工房はありました。晴れた日は駿河湾、富士山も良く見えるという、気持ちの良い工房です。




 かつて鶏小屋だった場所を自分たちで改修したそうで、今では素敵なショールームと工房になっています。




クスノキは温暖な気候で大木に育つ常緑広葉樹で、日本で一番太い樹です。トトロの木としても有名ですね。鹿児島の「蒲生の大楠」が国内最大ですが、二番目の大きさを誇るクスノキは熱海の来宮神社の境内にあり、幹回りは23.9m、樹高は26mを越えると言われています。このクスノキの他にも伊豆地方にはクスノキの大木が多く、今から170年くらい前、天保年間に台風で倒れてしまったクスノキの大木を使って日用品を作ったことが楠細工の始まりだそうです。現在も材料のほとんどは地元のクスノキを使っているそうです。

「天秤ほぞ」と呼ばれる組み方が楠細工の特徴とのこと。その細やかさと美しさに脱帽。



 現在は鳥澤さん、安井さん、小端さんの三人がここで楠細工を作っていらっしゃいます。婚礼箪笥が嫁入り道具だった時代この辺りに100人以上いた楠細工の職人は、今はこの工房の三人のみとのこと。婚礼箪笥に代わり、今は小箱やトレーなど、小物が売れる傾向にあるようです。テーブルや椅子なども技術を生かし、試行錯誤しながら商品開発をなさっていました。

クスノキの材の特徴と言えば香りと杢です。樟脳(クスノキは樟とも書きます)の原料としても知られていますが、クスノキの香りには防虫効果があり、木材面には杢(もく)と呼ばれる不思議な紋様が現れます。クスノキは交錯木理といって木目の順目(ならいめ)、逆目(さかめ)が交錯している木で、だからこそ、複雑で妖艶ですらある、美しい杢が現れます。



 見て下さい、この見事な杢!

一方で杢が出るということは、暴れやすい木でもあります。薄く加工したり、木の収縮を逃がす為の接着の工夫など、長年の経験の中で培ってきたクスノキの扱い方のお話もして下さいました。
また、交錯木理の木に使う(逆目でもかけられる)一枚刃の鉋の実演も。




髪の毛一本と言われる刃口。(見えない!)
この鉋の調整が、良い仕事が出来るか出来ないかの全てだと言います。


接着も昔ながらの膠を使い、土に還る、自然環境に良いものを、というコンセプトも大事になさっていました。一方で、いい仕事をすると買い手がつかない。食べて行く為のものづくりと、技術を残す為のものづくりを分けて考えて行かなければ、というお話もありました。適正価格を理解してもらい、買ってもらえる世の中の仕組みをどのように作っていくのか。我々アカデミー生もそれぞれの分野で向き合っている課題です。

 地元の木を使い、地域の文化、技術を伝承していくこと

まさに森林文化。昔は当たり前だった、シンプルなこと。
原点に帰り、考えさせられる工房見学となりました。
ありがとうございました!





ものづくり講座2年 岸田万穂