グリーンウッドワーク仲間たちと、最高級の木工道具をつくるリー・ニールセン・ツールワークス社 Lie-Nielsen Toolworks の工場を見学してきました。メイン州の小さな町の郊外にあります。
リー・ニールセンは伝統的な洋鉋(カンナ)のデザインを踏襲しながら、真鍮や青銅(ブロンズ)など高級な素材を用いて質の高い洋鉋を作り、新しいマーケットを築いた会社です。今では鉋以外にもさまざまな手工具があります。道具としてももちろん優れていますが、コレクターズアイテムとなっていたり、プレゼントとして贈られたりもするようです。
作業台に座って話しているのが創業者のトーマス・リー・ニールセン Thomas Lie-Nielsen。彼はもともと別の道具メーカーのギャレット・ウェイド Garret Wade で働いていたそうですが、質の高い木工道具がないと感じ、1981年に自ら会社を立ち上げたということでした。
(日本にはリー・ニールセン社の一部の製品を扱う店はありますが総合代理店がないそうで、どこか良いところはないかと言っていました)
上の写真は刃の成形部門。刃は別の工場で鋼板から切り抜かれて送られてきます。これらを機械で平面にし、25度の角度で刃先を成形します。
成形が終わると職人が寸法をチェック。熱処理部門へ送られ、焼入れが行われます。焼入れの後、刃が研がれます。
鉄製の鉋台は別の工場で作られ、送られてきます。上の写真は小鉋の台に刃口を開けているところ。緑色のTシャツの職人はこの工程も含め3〜4工程を同時に行いますが、1日約80個を加工するとのこと。
真鍮や青銅の部品は、美しい輝きを出すために職人が一つ一つサンディングして仕上げていました。研磨が終わった部品はピカピカです。
こちらは鋸刃部門。機械で成形加工した鋸刃を、職人がヤスリで仕上げていきます。
木製部品の加工場。サクラやカエデの木が使われますが、粗く機械で成形したものを一つ一つ手で仕上げています。スベスベの質感を出すために#220のサンドペーパーで仕上げるとのこと。鋸の柄をヤスリで削っている職人が仕上げるのは、1日わずか20〜25個!木工道具にしては、ものすごい手間のかけ方です。
リー・ニールセンの鋸は125〜225ドル(2015年10月のレートで15000〜27000円)ですが、この作業を見ると決して高すぎるとは思えません。
組み立て・検品部門。平面や直角が出ているか、部品は揃っているか、傷がついていないか確認し、試し削りも行います。問題があるものは送り返されます。上の写真では鉋台にマジックで丸がつけられていましたが、よく見ると小さな傷がありました。
こうして手間暇をかけた製品が、ここから世界へ輸出されていきます。この会社で働くのは全部で80人。中には2世代、3世代が同じ工場で働いている家族もいるそうです。製造業の多くが途上国へ移っていくなか、圧倒的な品質でシェアを築き、小さな田舎町に雇用を守っているのはすばらしいことだと思いました。
日本の鋸、ノミ、砥石などは海外でもたくさんのプロ・アマが使っているのですが、まだまだ一部の製品にとどまります。鉋のように扱いが難しすぎるものはなかなか普及もしないようです。もっともっと道具を使いやすく改良し、品質の高いものを生み出し、詳しく情報発信をすれば、日本のメーカーも海外の販路を伸ばすことができると思っています。森林文化アカデミーから、このような分野へも人材を送り出せればと思います。