エンジニア科1年生が毎年お世話になる中津川市の「加子母優良材生産クラブ」による現場
実習。
今回は午前中、雨模様であったため、林内での間伐作業を変更して改修工事したばかりの
明治座見学し、午後からは市場で購入された枝打ち優良材の製材を学びました。
最初に加子母優良材生産クラブ会長の田口さんや、事務局の安江さんから、加子母の概要を
学びました。
続いて、明治座の横にあるオランダ人技師、ヨハネス・デレーケの堰堤を見学。明治時代の日本
にオランダから来て、日本の治山に貢献された偉人の足跡を目の当たりにしたのです。
さて、本論の明治座です。 明治座を改修工事をする上で問題なのが建築基準法、この法律に
従って改修すると在来構法で実施しなければならない。
一般的には、伝統構法は柱を石(礎石)の上に乗せただけであるため、地震に弱いと勘違い
されているため、なかなか改修工事に踏み込めない。
しかし、加子母としては柱は礎石の上に乗った、そして屋根は栗の榑葺き、庇は椹(さわら)の
榑葺きにするため、伝統構法で改修することを決めたのです。 ちなみに「榑葺き」は「柿葺き(こ
けらぶき)」とも言われています。
しかし、またまた問題が! それは榑木を作っている所がない。
その榑木を加子母優良材生産クラブの方々が、長さ尺五寸(45cm)の丸太から一枚一枚剥いで
つくったのです。 明治座の手前にはその見本が設置されており、手前は栗の折ぎ板(ヘギ板)で
右側は椹(さわら)の折ぎ板です。 グリーンウッドワークでの折ぎ板と同じ方法です。
急遽、中津川市加子母支所の内木所長さんもお越し下さって、伝統構法でどのように改修工事
したかを説明して下さいました。
内木所長さんは、尾張藩の山守りを務めた内木家の二十代目当主。その内木さんは以前、
明治座の支配人もされていました。
明治座の入り口正面から見た外観です。大屋根の屋根板はすべて栗の折ぎ板、庇部分の屋根
板は椹(さわら)です。
明治座の奥側から屋根板を見ると、写真のようになっていますが、説明を受けないと、どれが
栗で、どれが椹か見分けがつきません。
折ぎ板を並べた上には、板と置き石が乗せられています。
この尺五寸の栗と椹の折ぎ板、合計で85000枚もあるそうです。これをすべて加子母で作った
のです。
明治座内部は広く、二階席もあります。一階席は枡席になっており、天井には左右に大きな
モミの木の梁があります。このモミの元は直径1mほどあり、長さは15.4mあります。
舞台にある引き幕は寄付者によって作られたもので、当時のお金持ちや芸者さん、お嬢様など
の名が記されています。
回り舞台の装置や、楽屋、そして奈落も見学し、伝統構法による木材利用を学んだのです。
午後から訪問したのは、東濃桧の優良材を製材されることで有名な田口製材さん。 社長の
田口さんから、原木の見分け方、曲がり、年輪幅、芯のズレ、色合い、樹皮に残る節跡など
についてお話をお聞きしました。
この五本は生産地が二ヶ所、三本一組、日本一組で、左から二本目が天然木で、他は人工
造林木です。
早速、五本の原木を製材の送材車のところに運んで製材です。 普段は樹皮付きの原木を
製材することはありません。一度、バーカーで樹皮を剥いでから製材しますが、今回は学生たち
のために、そのまま製材です。
製材はなるべく最終産物である柱材の芯が中央に来るよう木取りしながら進めます。
事前に二本の枝打ちヒノキを製材して下さったものには、写真のような穴(ピンホール)があり
ました。
このピンホールは強度の枝打ち材に見られるもので、丸太原木の段階では見抜くことはでき
ません。強度の枝打ちを実施した直後から数年の年輪にのみ見られます。
このピンホールが出ると、製材完了時に6000円の価値のある材は1800円に下落、最終製品で
30000円で販売できるはずの製品が3000円の価値にしかなりません。
もちろん強度的にも何も影響しないのですが、買い手は色々理由付けして買い叩くのです。
ピンホールが発生した木を収穫した山は、必ずすべてピンホールが発生する。 田口さんが
仕入れてきた丸太原木の半分近くに、こうしたピンホールが出るため困った問題です。
やはり枝打ちは弱度のものを数回に分けて実施すべきなのです。高山方面の北の方で仕入
れるヒノキにはピンホールは発生しないそうです。
今回挽いた製材は、末口直径が18cm程度の者は4回製材機にかけるだけでしたが、末口直径
が26cmのものは8回挽いて、その中で鴨居や長押、木工屋さんの造作材を取りました。
天然木と人工造林木を比較すると、天然木の方が良いと思いませんか? 天然木は確かに良い
ですが、ただ一つの欠点は「アテ」がでることです。
ヒノキの場合、斜面の下側に圧縮アテが発生し、それが狂いを発生させたり、色が飴色に濃く
なる現象が発生します。 写真の上側は四本目に製材した天燃木、下側は五本目の人工造林木
です。 色の違いが分かりますか。
田口製材さんでは、柱材は14cm角に製材して、表面に割れ止め剤を塗布し、温度40度の除湿
乾燥を一週間実施。高温乾燥したら、ヒノキの良い香りが無くなるので、40度以上にしないそう
です。 そして三週間後に、14cmの角材を製材で挽き直して12.5cm角にして出荷します。
この「製材二度挽き」という手間が、東濃桧の品質保持の技術の一つなのです。
東濃桧の里、加子母ではいろいろな方法で山の木を活かす人たちが存在することで、地域の
山を守っているのだと実感しつつ、加子母を後にしたのです。
以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。