2013年11月2日土曜日

森林とものづくりのつながり 現場を巡るスタディツアー

ものづくり講座の教員、久津輪です。今年からエンジニア科(森林・林業・木材利用を学ぶ学科)1年生向けの「特用林産物」の一部を担当することになりました。ものづくりの教員が林業系の授業にデビュー!ということでドキドキしましたが、多くの方の協力を得てすばらしい授業になったので(自画自賛)、ご紹介します。

今回参考にしたのは「岐阜県林産物一班」。大正3(1914)年に発行された、県内の各市町村で森林資源を用いてどんなものが作られていたかを調べた文献です。つまり、今からほぼ100年前の岐阜県の姿がここに書かれているのです。
下駄、笠、杓子、籠、笊、椀、曲げわっぱ。かわったところではビール箱や荷車など。このような生活や仕事に使うあらゆる道具が、ごく最近まで身近な森林資源から作られていたことを説明してから、ツアーに出かけました。
(岐阜県林産物一班は、岐阜県図書館で復刻版を購入できます)

この文献に出てくる林産物は、今では生産されなくなったものがほとんどです。しかし中には今も作り続けられているもの、これからも残していかなければならないものがあります。
その中の一つが竹細工。岐阜県には1300年の歴史を誇る長良川の鵜飼があり、それには竹製の鵜籠が使われます。このブログでも何度か書いていますが、最後の鵜籠職人が引退する直前に森林文化アカデミー卒業生の鬼頭伸一さんが技術を受け継ぎ、美濃市内で竹細工に取り組んでいます。

作業場を訪れた学生たちに対し鬼頭さんは、竹はどこにでもあるようだが、鵜籠に使うのは淡竹(ハチク)の4〜5年ものが望ましいこと、節間が長く直径が6〜7センチであるなど様々な条件があることを説明してくれました。こうした竹を確保するため、竹林整備も自ら行なっています。
また、鵜籠の需要に応えていくためには若い男性の担い手がほしいという話もありました。これに対して、一人が関心を持って手を挙げてくれたのは嬉しかったですね〜。今後に期待です!

午後からは美濃市北部のふくべの森へ移動。ここは昨年度、和傘づくりに欠かせないエゴノキを採取するイベント「エゴノキ・プロジェクト」を実施したところです。日本中の和傘づくりに1年間に必要なエゴノキ約500本をここで伐りました。

この森のエゴノキは節が少なく真っ直ぐで、極めて良質なのです。キャリア50年の職人さんも驚いたほどでした。しかも密集して生えています。写真のうち真っ直ぐなのはほとんどエゴノキです。

しかし、これからも和傘のために持続的にエゴノキを伐り続けることができるのかが心配です。そのため、去年エゴノキ・プロジェクトに参加した2年生の水島寛人君が、1年かけて資源量調査をしてくれました。

その成果を現場で後輩たちに発表しました。指導に当たったアカデミー教員の柳澤直さん、エゴノキを使う傘ロクロ職人の長屋一男さん、地元でこの森林を管理する小椋将道さんも、聴講してくれています。

調査は明るい結果が出たのですが、エゴノキの更新を促すためには皆伐した方がよいのか、間伐した方がよいのか等をみんなで話し合いました。木を伐る側と使う側が、持続可能性を考えながら伐採の量や方法を一緒に話し合うなんて、日本全国を見渡してもそう見られない光景ではないでしょうか。

ここまででも十分な学びになりましたが、欲張ってもう1ヶ所、学生たちを連れて行きました。エゴノキを加工する長屋さんの木工所です。美濃の森のエゴノキがどう姿を変えるのか、ものづくりの現場を見てほしかったのです。ここで作られる傘ロクロが、日本中の和傘に使われています。

学生たちの眼差しを見れば、このスタディツアーでいろんなことを学び、感じてくれたことが分かります。林業を学ぶ彼らにとって、この一日の体験が長く記憶に残るものとなってくれれば良いなと思います。

最後に一言。この授業、多くの方に支えられて実現しました。ご協力ありがとうございました!