「世界農業遺産」をご存知でしょうか?
UNESCOの世界遺産に名前は似ているけれどちょっと違います。FAO(国連食糧農業機関)が2002年に始めた仕組みで、次世代に受け継がれるべき伝統的な農林水産業を認定するものです。
岐阜県は「長良川の鮎」を登録しようと取り組んでいます。気運を盛り上げようと8月29日には国際シンポジウムが開かれました。
実は森林文化アカデミーも、世界農業遺産の登録申請に協力してきました。長良川鵜飼に使われる鵜籠の技術継承や、流域の工芸品である岐阜和傘の材料確保をお手伝いしてきたことが評価され、申請書にも記載されています。そのためシンポジウム会場にも、鵜籠や和傘が展示されていました。
それにしても、長良川の鮎漁を登録するのに、どうして鵜籠や和傘まで?と思う人も多いのではないでしょうか。私自身も初めはそうでした。今回のシンポジウムで、この世界農業遺産の創始者・パルヴィス・クーハフカン氏と、日本での登録活動に尽力する武内和彦氏が講演しました。お二人の講演内容は、そうした疑問に答えてくれるものでした。
武内和彦さんは国連大学の上級副学長です。UNESCOの世界遺産とFAOの世界農業遺産について、分かりやすく比較してくれました。
世界遺産=「現状を変えないのが基本」「〜してはならない」「歴史重視」
世界農業遺産=「ダイナミックに保全する」「〜したほうがいい」「未来志向」
農林水産業がどんどん大規模化、画一化し、農薬や肥料など環境への悪影響が広がる「プランA」に対し、世界農業遺産は、伝統的で持続可能な地域ごとの農林水産業を守り継承する「プランB」である、という言葉も印象的でした。
パルヴィス・クーハフカンさんはFAOに30年勤め、現在は世界農業遺産基金の代表。ご自身もローマ近郊に畑を持ち、果樹や野菜を作っています。
この制度は単なる農林水産業の技術や一形態を登録するのではなく、そこに携わる人々の生計を確保し、地域の多様な動植物を守り、人々が築き上げてきた文化や景観も保ちながら未来へ受け継いでいこうという、幅広いものであるということでした。
手をこまねいていては「プランA」の大企業に負けてしまうので、「世界農業遺産」ブランドをどんどん活用してほしいとも言っています。一例として挙げていたのが下の写真。中国で、水田で魚を養殖する農法(漁法)が登録されているのですが、いろんな食品が「農業遺産」ブランドで売られています。これでどんどん儲けてください、というのは面白いですね。
パルヴィスさんはまた、「世界農業遺産は、認定されるまでよりもそれからが大事。アクションプラン(行動計画)が大事だ」と言っていました。
その時思ったのが、世界農業遺産のアクションプランは「長良川おんぱく」だ、ということでした。長良川おんぱく、岐阜の人にはもうお馴染みですが、長良川中流域のあちこちで1ヶ月間行われる小さな体験プログラムの集合体です。今年はなんと180もの魅力的なプログラムがあります。
鮎料理や農産物などの伝統的な食文化を味わうものもありますし、工芸を体験するものもあります。実は、森林文化アカデミーの卒業生たちもたくさんプログラムを提供していて、「職人とつくるまめ和傘」、「里山でキコリ体験」(和傘の材料を収穫するもの)、「新米鵜籠職人とつくる竹の鍋敷き」、「郡上のヒノキでMY下駄づくり」、「七種類の樹から七色の森の色えんぴつづくり」などなど、これらはみんな卒業生たちによるものです。
もちろんこれらは体験プログラムにすぎませんが、たくさんの人たちに関心を持ってもらい、持続的な活動につなげるよいきっかけになります。
世界農業遺産の最終審査はこの秋、ローマにて。審査委員たちに「岐阜ではすでに180もの小さなアクションプランを実行中です」とこの冊子を見せれば、感嘆の声があがるのではないでしょうか。
長良川おんぱく、詳しくはwebサイトにて。