ニホンツキノワグマとニホンジカ、そしてノウサギ
クリエーター科1年生の『野生動物管理概論』、今日は岐阜県森林研究所の岡本卓也さんを
お迎えして、「野生動物が林業に与える問題」について講義と実習を指導して頂きました。
岡本さんは学生時代に「ニホンツキノワグマがなぜ樹皮を剥ぐのか」を研究され、現在は研究所
で、ニホンジカやニホンツキノワグマによる林業被害を中心に研究されています。
林業的に被害をもたらす野生動物はニホンツキノワグマ、ニホンジカ、ニホンカモシカ、ノウサギ
ノネズミ(ヤチネズミやアカネズミ、ハタネズミ)がある。
被害の申告事例をもとに、被害面積をまとめると意外にも少ない。所有者があまり真剣に申告
していない現状。
ニホンツキノワグマは植物を中心に、夏はハチやアリを食べ、秋にはブナやミズナラなどの堅果
を食べるが、栄養摂取効率が悪く30%程度しか吸収できない。
岐阜県内には1300頭ほど生息すると推測されている。
ニホンツキノワグマは春から夏にスギやヒノキの形成層を摂取している。この時期の形成層は
剥がし易く、甘い。
すべてのツキノワグマがクマ剥ぎするのではなく、地域性がある。これは母親からの教育、つまり
垂直伝播する嗜好性と考えられる。
クマ剥ぎで枯れた木が見られれば、その10倍は被害に遭っているとも考えられている。スギは
ヒノキより被害に遭いやすい。
幹には縦に3~4本の歯形が10cmほどつく、外皮は大きくめくられている。成長が良く、太い木
ほど被害を受けやすく、調査では山側が94%被害に遭遇していた。
ヒノキとスギでは被害の高さや、腐朽の入り方も異なる。
次にニホンジカ、約1000種類ほどの植物を摂取する。食べ物が無くなれば晴れ葉も食べる。
同性で群れを作るため、群れで目の前の植生を食べ尽くして、次から次へ移動する可能性が
ある。
ニホンジカの食害は①枝葉の採食、②樹皮剥皮(樹皮採食・雄の角擦り)がある。
1.岐阜県内の枝葉採食は春先が多いが、九州などでは年中採食。
2.樹皮採食は春先、小径木~大径木まで、地上150cm程度の食物繊維摂取。
(大台ヶ原なんどでは夏に笹を食べたあと、胃内部の異常発酵を抑制する目的で
樹皮繊維を食べていると考えられている。) シカは外皮も内皮も食べる。
3.雄の角擦りは胸高直径15~20cmの立木の高さ30~100cm高で発生する。
ニホンジカが樹皮を採食する場合、広葉樹では短いノミ(鑿)状歯形を「残し、針葉樹では
一面に剥いで食べている傾向がある。
ニホンジカは手入れされた林分で、しかも緩傾斜地であるほど被害を多く発生させる。
シカの樹皮剥ぎは根元から。
シカの対策には ①防護策、②忌避剤、③樹木保護材利用、④成木用保護材がある。
防護策はha当たり50万円以上かかり、忌避剤は一本当たり20~40円かかる。
ヘキサチューブなどの樹木保護材は一本当たり700~1300円、成木用保護材は一本
当たり300~800円かかる。
シカ避けネットを張ると、まず最初にネットの下をくぐろうとする。
午後から演習林で、「獣道」探し、「食害痕」探し。
ここは下りで使っているか。 ここに罠を仕掛けるか。 この動物は何か。
これはニホンジカが最も好む樹木、リョウブ。 樹皮食いの痕跡がある。ニホンカモシカは樹皮を
食べないから、ここにはニホンジカが来て樹皮食いをしている。
早速、ヒノキの苗を植えた所に、シカ避けネットを設置してみる。
杭の高さ、ネットのスカート部分の余尺、様々考慮しながら小さな面積ですが設置の練習。
結構急傾斜であるため、下から張り上げるのも容易でない。林地残材を取り除いたり、
斜面の起伏に併せて、支柱杭を設置したり、神経を使う。
最後に、郡上市でニホンジカやノウサキの樹皮食いに遭遇した4年生ヒノキを見せて
頂いた。 このまま成長すれば、形成層の欠落した部分を樹皮が覆って判らなくなる。
しかし何十年もかけて育てた木が、伐採して市場に出したら、二束三文のこともある。
さて、今日は室内講義と現場実習でしたが、来週は本巣市根尾や揖斐川町などで、クマ剥ぎの
現場対応です。
ニホンツキノワグマに遭遇しないことを祈りつつ、次回を楽しみにしましょう。
以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。