クリエーター科1年生、林業再生講座と山村づくり講座の学生が学ぶ『野生動物管理概論』、
第一回目の今日は終日授業、午前中はJIRIによる「森林における鳥獣被害の概況」、および
有害鳥獣、狩猟鳥獣に関する講義です。
最初に、ニホンジカ、イノシシ、ツキノワグマなどのスカルプ標本や足剥製標本を見ながら、
その野生鳥獣の特性を現物勉強です。よく似た足跡はどの動物か、何が危険か、敏感なのは
音か臭いか。
見分けの方法は何か? ニホンジカによる樹皮剥ぎの被害は斜面の下側から、ツキノワグマの
樹皮剥ぎは斜面の上側から、ニホンジカの食べ方とノウサギの食べ方は違う。
森林被害と言えば、昔はノネズミとノウサギが問題だったが、現在はダントツにニホンジカ、
森林被害の8割を占めている。
しかもニホンジカは爆発的に増殖し、若い樹木や高山植物まで食べ尽くす。樹皮も角研ぎだけ
でなく樹皮食いする。
持続可能な林業をうたいたいなら、このニホンジカをなんとかしなくては?
昨年は約1万7千頭が捕獲されたが、それでも岐阜県には6万頭を越えるニホンジカが生息する。
狩猟鳥獣と有害捕獲される鳥獣との違いは何か。 ジビエ料理と簡単に言うが、実際には
問題だらけでうまく行かない。 などなお様々な項目をお伝えしました。
午後からは、岐阜県庁自然保護課から岐阜大学応用生物科学部付属野生動物管理学研究
センター鳥獣対策研究部門に出向している和田敏さんと桐井英幸さんによる講義。
最初に和田さんから、森林に最も被害を与える「ニホンジカによる森林下層植生衰退度調査」に
ついて、講義して頂いた。
ニホンジカは①目撃情報、②捕獲頭数情報があるが、和田さんたちはニホンジカが植生に
被害を与えるのを確認する③SDR法での情報を併せて研究しています。
・シカの生息密度が高い西濃や中濃では、顕著な植生衰退が見られた。
・これまでシカの目撃・捕獲が少ない東濃南部地方や飛騨南部でも、顕著な植生衰退が発生して
いる。
・SDRの分布情報に基づいて、捕獲強化を検討する。
・これまでシカ被害が問題視されていなかった飛騨・東濃での対策強化。
・継続調査のためのモニタリングシステムの構築
など様々な課題がある。
人工林として有名な関ヶ原町今須の「今須択伐林」、ここもかつては人が森で活動していた頃は
下の写真(左側)のように植生豊かで、植物種も25種確認されていた。
しかし現在は、下の写真(右上)のように下層植生はシカが嫌うマツカゼソウやイワヒメワラビ
などが5種ほど確認できるだけ。
林業の分野では、今後は小面積ながら皆伐が進行する。そうした場所では、実生や切り株から
の新しい芽生えがあり、それを周囲から入り込んでくるシカが食べて、一層繁殖する。
シカの餌場をつくってしまうこともある。
続いて、桐井さんから「岐阜県の野生動物対策について」の講義。
桐井さんはもともと農業関係の方なので、農業被害の傾向も併せてお話しして頂きました。
野生動物の被害対策の考え方として「3つの管理」というものがある。
①被害管理: 被害地に近づけさせない。
②生息地管理: 野生土物の食料となるものの管理・除去
③個体数管理: 加害野生動物の駆除
岐阜県の捕獲頭数は増加しているものの、まだまだニホンジカもイノシシも増加傾向。
岐阜県は平成26年度に17,441頭のニホンジカを捕獲したが、まだまだ増えている。
近年狩猟者数は減少の一途、特に鉄砲による銃猟の人の減少は著しい。それに比べて、
罠猟の資格取得者は微増傾向にある。
これからの鳥獣管理は、「わな捕獲を中心とした捕獲体制モデル事業」。
狩猟免許取得者だけでなく、地域の人々全員参加による獣害対策。 罠の餌やり、見回りは
免許を持ってない人も一緒に実施、地域一丸の対策が重要。
最後に、和田さんと桐井さんから、「今後狩猟免許を取得することに、どのような理由で取得
しないのか?」という投げかけ。
学生は、「まだ将来の活動の場所が決まっていないから」とか、「狩猟免許の登録や維持などに
予想以上にお金がかかるから」とか、「止め刺しという行為に抵抗があるから」などの意見が出まし
た。
さて、来週は森林研究所の岡本さんから、試験場の獣害研究最新情報を併せて講義と実習です。
以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。