ゲストの神田浩史さんは、NPO法人泉京・垂井 理事のほか、国際協力・ODA政策決定の分野で複数のNGO理事や大学講師として活躍されています。
上流域の森林~中流域の農地や集落~下流域の都市部へと連続する流域社会は、アジアモンスーン地帯に特有の生態的構造といえます。垂井町がある揖斐川流域でも同様ですが、上中流域では森林荒廃・過疎化などの問題が起こり、下流域の都市部では行き過ぎた消費行動と裏腹に経済格差や人間疎外の問題などが起こっています。
これらのチグハグな問題群を解決する糸口は、多様性・循環性・関係性をキーワードに「つながり」を紡ぎ直すこと~これが「穏やかで豊かな社会(穏豊社会)」を実現させる見取り図だと神田さんは言います。そして揖斐川流域 "らしさ" を活かした地域づくりのためには、文化・歴史・伝統を核として「生業づくり」「暮らしづくり」「ひとづくり」の3つが必要だと説きます。
NPO泉京・垂井では、こうした考え方のもと幅広い活動を展開してきました。主な活動として、揖斐川流域の「環境ウォーキング」、大学生やNPOを受け入れる「都市・農村交流講座」、2011年に始まって今や1万人を超える来場者を集める「フェアトレードデイ垂井」、そして地元行政や議会を巻き込んだ「フェアトレードタウン垂井」を目ざす活動等があります。
最新の活動では、「フェアトレード&地産地消 みずのわ」というショップ・フリースペース・事務所を兼ねた、古民家活用の拠点運営があります。ここには地域の生産者や市民活動グループなど様々な人が集まって来ます。また地域のお祭りに招かれて「みずのわ」の屋号で出店することもあるそうです。
神田さんは、地球的な視点から21世紀の2大問題といわれる「南北問題」と「環境問題」の解決に取り組んで来られましたが、その具体的な姿が「揖斐川流域での穏豊社会の実現」という取り組みです。でもこれって考えてみれば、山側・山村側から地域づくりに取り組んできた私たちの目標や活動と驚くほど一致します。
今回のお話を聞いて、私自身が目を開かされた点を2つ記しておきます。
1つ目は、地産地消とフェアトレードを連続した地平で捉えること。地域内循環という考え方はよく言われますが、これを地方都市圏>農山村と都市部>日本の消費者と世界の生産地の循環関係まで敷衍していくことで、地域づくりに大きな視点と時代的意義が与えられます。
2つ目は、尖鋭なコンセプトを掲げることは、感受性ゆたかな若者や深い考えを持つ支援者を遠方から惹きつける磁力になること。フェアトレードというコンセプトなどはその好例です。農山村の地域づくりでは近隣住民との関係性や合意を大切にするあまり、こじんまりした歩幅の小さな活動が多くなり、魅力ある大きなビジョンを描けなくなりがちです。両者の視点が大切だと改めて思いました。