2014年11月末に本美濃紙がユネスコの無形文化遺産に登録されて以来、和紙についての話題が多い1年でした。森林文化アカデミーでも、一般の方に和紙のこと、特に原料であるコウゾのことをもっと知ってもらおうと、「美濃和紙マニアックス」という講座を企画し、夏と冬の2回にわたって実施しました。
ここでは5つのクイズで、講座の概要をご紹介しましょう。
(1)「本美濃紙」と「美濃和紙」、原料は何が違う?
(2)「本美濃紙」の原料はどこで作られている?
(3)コウゾという植物は実在するの?
(4)コウゾは和紙の原料になるまで育つのに何年かかる?
(5)コウゾの株はどうやって増やす?
コウゾの葉 |
そもそも本美濃紙と美濃和紙って違うの?という人も多いことと思います。「本美濃紙」とは、文部科学大臣によって国重要無形文化財に指定されたもの、「美濃和紙」とは、経済産業大臣によって伝統的工芸品に指定されたものです。
それぞれに指定要件があり、前者は「こうぞのみであること」、後者は「主原料はコウゾ、ミツマタ、又はガンピとすること」となっています。
それぞれ、詳しい指定要件が次のページにありますのでご参照ください。
本美濃紙
美濃和紙
美濃市内のコウゾ畑(7月) |
本美濃紙なのだから当然美濃で、と思いたいところですが、実は茨城県で作られています。大子町や常陸大宮市で生産されるものが「那須楮」と呼ばれ、日本で最高級のコウゾとされています。那須ならば栃木県では?と思ってしまいますが、茨城県側で作られたコウゾが川で栃木県側へ運ばれ流通したことから、この名前がついているのです。
ところで那須楮を生産するのは70〜80代の農家の人たちで後継者がなく、今後も原料を安定して供給してもらえるか和紙産地は不安を抱えています。美濃市にもコウゾ畑はありますが収穫量や品質ではまだまだで、やはり人手も足りません。そこで和紙職人たちが中心となり、コウゾ生産のボランティア組織が立ち上がりました。岐阜県の森林研究所や森林文化アカデミーでも、品種改良の研究や市民向け講座を通じてお手伝いをしているのです。
コウゾの解説をする、岐阜県森林研究所の茂木靖和さんと渡邉仁志さん |
紙漉きの解説をする、和紙職人の杉本和香奈さん |
(3)コウゾという植物は実在するの?
もちろん植物としては実在するのですが、実は分類上は「ヒメコウゾ」という植物と「カジノキ」という植物の雑種なのです。このうちカジノキは(諸説ありますが)もともと日本に分布していないとされるため、コウゾも人によって日本に持ち込まれ、人為的に増やされた種だと考えられています。
美濃市内のコウゾ畑(12月) |
(4)コウゾは和紙の原料になるまで育つのに何年かかる?
実は1年もかかりません。春先に株から芽を出し、夏場には一気に3メートルほどに育ちます。脇から芽が出てくるのを何度も摘み取ってまっすぐの幹に育て、冬に収穫します。今回のマニアックス講座でも、夏の脇芽かきと冬の収穫の体験をしてもらいました。
脇芽は摘んでも摘んでも出てくるので、炎天下で何度も作業するは本当に大変ですが、良質のコウゾを作るには欠かせない作業なのです。
脇芽かき 夏の間に何度も作業が必要です |
収穫 皮をはがしてしまわないよう、ノコギリで伐っています |
(5)コウゾの株はどうやって増やす?
コウゾは雑種であるため、ほとんど種子をつけないとされています。そのため挿し木や、根を掘り出して一部を分ける分根によって、同じ性質を持った株を作ります。講座では森林研究所の茂木研究員から、挿し木の育て方の解説がありました。
ところで美濃市内のコウゾは、3つの品種が混ざっているようです。そのうち主なものは2つで、幹にマダラ模様が出るのが那須系、黒っぽいのが土佐系とされています。生産量全国1位の茨城県、2位の高知県から、それぞれ持ち込まれたものかも知れません。
挿し木を土にそのまま挿す方法と、ポットで育てる方法 |
春先に畑に植え替えます |
マダラ模様の那須系 |
黒っぽい土佐系 |
夏と冬、2回の講座には、和紙に関心を持つ市民、原料のことは詳しく知らなかったという和紙問屋の人、森林インストラクター、和紙を住まいに採り入れたい設計士や工務店の人、良い原料を育てたい和紙職人、市役所や県庁職員など、多くの人が参加しました。参加者からは、「いろんな立場の人がみんなで支える形になっているのがいいですね」という声が聞かれました。2年目以降も続けて、美濃和紙のファンやサポーターを増やしていきたいと思っています。
最後はみんなでハイ、コーゾ! |