平成24年度 岐阜県立森林文化アカデミー主催の
施業プランナー 上級研修 「森林整備にかかるリスクとその対処法」 を実施しました。
現場は岐阜県関市温井地内のスギ・ヒノキ人工林で、岐阜県を代表する林業事業体である
カネキ木材さんが平成20年9月から約7haの森林整備(利用間伐)と作業道解説をした現場です。
本日の講師は、(株)カネキ木材の大野公之社長さんと岐阜県森林研究所の臼田専門研究員。
この現場は、森林整備を進める下流域に簡易水道の取水口があり、作業道を開設して、ロング
リーチグラップルで集材し、80m3/ha程度の利用間伐を実施しました。
しかし利用間伐をしているときに、豪雨があり、渓流で激しく濁水発生して、簡易水道の取水口
の採水が停止しました。
近年の簡易水道は取水する場合に、渓流水の濁度が一定以上の数値となると、取水を停止し
ます。この現場は濁度20度で、取水が停止しますが、この停止理由が作業路開設か森林整備
にあるのではないかと問題になったのです。
研修では既存の林道から、カネキ木材さんが開設した作業道の入り口から踏査しました。
写真の左から二人目が講師の大野社長さん。
こうした現場は、なかなか見せてもらえないのですが、施業プランナーを育てるためであれば
協力しようと、快く現場の説明をしてくださいました。
大野社長は
「人も動物もなごやかに過ごせる山づくり、災害強く、水源守る山づくり、
植林から利用までの生きた山づくりを目指している 」と語られました。
もともとある小さな谷を作業道が越すところは、転石類を集めてグラップルでしっかり積み上
げながら透水を促進させたそうです。ここでは.45クラスのグラップルでないと作業できなかった。
そうです。
作業道を開設したのは、社員の山口さんですが、この方の観察力や技術力の高さを、そこ
かしこのポイントで感じました。
ロングリーチグラップで利用間伐した現場の残存木に傷がほとんど無いので、作業時の
注意点をお聞きすると、現場で伐採木を引きずり出すときに、立木の近くに伐採したサカキ
などの堅い広葉樹を立てかけて、立木の幹元が損傷しないようにした工夫や、銀マットを
立木に巻き付けた事例もお話ししてくださいました。
この作業路は路面の横断溝が多く、表面流が心配な場所では5mおきくらいに横断溝が
設置されています。
上の写真は路面の路肩を50cmほど突き抜けて、丸太の横断溝が設置してあり、その
下側(写真手前)に沈砂地がつくってあります。
この余分に突き出た丸太横断溝は、少しの水の場合は、この丸太を水が伝わることで
路肩の流水損傷を抑制します。また、排水地に沈砂地を設置することで、渓流に流れ込む
「濁水」が極端に減少します。
この作業路では、技術者の山口さんによる丁寧な路面てん圧と、こまめな丸太横断溝
設置の効果で、開設4年目にしても、路面や路肩の損傷はあまり見られません。
これは見習うべきポイントです。常に観察し、常に考える。そうした努力の賜なのでしょう。
他にも、丸太組工なども見学しましたが、これほど管理された作業路で、渓流水の濁水問題
が発生したのが奇妙な話です。
そこで、林業普及指導員や森林研究所、県庁職員が検討を重ね、降雨があるたびに
森林研究所が現場の上流や現場、そして下流などの渓流水を調査し、濁水の原因が何か
を調査しました。
その間、カネキ木材さんは、森林整備をストップして、林道の側溝に堆積した土砂や集水升
に堆積した土砂の掻き出しを実施。
結果、わかったことは、渓流水の濁水は既存の林道を往復する木材運搬トラックによって
発生する路面の土砂が降雨とともに渓流に流れ込むことが原因で、作業路開設や森林整備
は問題がないことが証明されたそうです。
実際に、渓流の濁度測定してみました。今回、濁度計を森林文化アカデミーで購入したので
施業プランナーの方々には必要なときはお貸しします。
濁度計以外にも、ペットボトルを利用した簡易な透視度の利用も経験させてもらいました。
研究所で採取した水道水を濁度計に入れてみると、濁度は0.99でした。次に、少し土砂を
混入させた水を濁度計で測定すると 濁度56度、これを透視度計で測定すると、透視度7
となりました。
研修では渓流水の濁水に関する問題、様々なリスクに対する問題対処事例を検討しました。
最後に、問題となった簡易水道の「取水口」をみなで見学しました。今回は取水口の
コンクリート部分が草刈りされており、それらしきものがわかります。
しかし、多くの現場ではそうしたこともされていない場合が多く、やはり森林整備や作業道
開設を実施する前には、地元の自治会などとの事前打ち合わせが必要だと、感じたのです。
山を良くするために実施する森林整備ですが、そうした思いが空回りしないよう、森林所有
者以外の地域住民を含めた情報の共有化も重要なのだと、リスクコミュニケーションを勉強
した研修者全員が感じたのです。
今回の研修にあたり現場説明などお忙しい中、対応してくださったカネキ木材の大野社長
さんと森林研究所の臼田さんに感謝致します。
以上報告、ジリこと川尻秀樹でした。有り難うございました。