森林文化アカデミーでは、様々な学習成果をふまえ、関連する国内の先進事例等を見学する「国内研
修」を行っています。
平たく言えば、修学旅行ですね。普段の実習では出掛けられない遠方を泊まりがけで訪ねます。
国内研修の1日目の目的地は京都です。「修学旅行だけに京都か」と思われた方もいらっしゃるかも
しれません(京都は関東地方の高校の修学旅行先の定番なのです)。しかしアカデミーのバスは渋滞
する京都市街の観光地を素通りして、山の奥、南丹市美山町の京都大学芦生研究林へ。高校の修学旅
行とはひと味違います。
京都大学芦生研究林事務所 |
芦生の森は東京帝国大学理学部教授の中井猛之進博士が1941年に、その名も「植物ヲ學ブモノハ一度
ハ京大ノ芦生演習林ヲ見ルベシ」という題名の論文(ストレートなタイトルですね)を出されたこと
から有名になりました。近畿地方随一の秘境とも呼ばれています。植物や森林を学ぶ者なら一度ハ訪
レテミタイあこがれの森ですね。
天候は生憎の雨でしたが、研究林長の長谷川先生の案内で、最奥部の原生林を訪ねました。
まず目をひくのは大きなトチノキです。由良川源流部にあたるこの谷には、多くの栃の大木が生えて
います。雨に煙る栃の森で、学生もその大きさに圧倒されていました。
(左)トチノキ (右)トチの実 |
今年は成り年だったのでしょう、地面にはおびただしい数の実が落ちていました。昔から栃
の実は栃餅の材料として使われてきました。重要な山の産物の一つです。
栃の大木が落とす実を食べるのは、人間だけではありません。当然大型の野生鳥獣の餌になります。
トチノキの多い芦生の森は、多くの動物が暮らせる豊かな森でもあるのです。が、多くの動物も、
行きすぎるととんでもないことに・・・。
シカ柵と林床の植生 |
写真は芦生研究林で設定した調査プロットだそうですが、シカの入ってこれないよう張ったネットの
外側にはほとんど植物が生えていません。鹿さんにやられてしまったのですね。「ヨモギですら絶滅
危惧」。噂には聞いていましたが、これほどすごいとは・・・。このままではある程度の大きさの樹
木以外はほとんど絶滅してしまいます。当然ブナ帯の林床に普通なササ類も、ほとんど見られません。
温帯のブナ林を見慣れた目には、異様に映ります。中井猛之進先生もあの世でさぞや嘆いておられる
ことでしょう。
イワヒメワラビ群落 |
シカが増えすぎると、植生の破壊が起こると同時に、忌避植物(シカが好まない植物)が繁茂します。
写真のイワヒメワラビは近畿地方では有名なシカの忌避植物です。このように、偏った植生がみられ
るようになるのです。もちろんシカは造林した苗木を食べてしまいますし、樹皮を剥いでしまって材
価を下げてしまいます。林業にとっても大きなダメージです。
アシウスギ |
写真は「アシウスギ」です。ウラスギとも呼ばれ、日本海側の多雪地に生える天然杉です。
枝が垂れていますが、接地した場所から発根し、そこから先の枝が幹になります。「伏条」と呼ばれ
る繁殖方法です。多雪地ならではですね。太平洋側に生えるオモテスギだと、雪の重みで枝や幹が折
れてしまいます。
お疲れさまでした! |
いろいろ解説していただきながら、無事に由良川源流最奥部、杉尾峠まで歩き切ることができました。
シカによる植生後退と土砂の流出や水質の変化の話など、お聞きした話はいっぱいありますが、紙面の
都合でここまでにします。もっと詳しく知りたい方は、ぜひ森林文化アカデミーへ!
(ブログは国内研修2日目へと続きます・・・)