2012年9月21日金曜日

国内研修に行ってきました(芦生研究林編)



森林文化アカデミーでは、様々な学習成果をふまえ、関連する国内の先進事例等を見学する「国内研
修」を行っています。
平たく言えば、修学旅行ですね。普段の実習では出掛けられない遠方を泊まりがけで訪ねます。

国内研修の1日目の目的地は京都です。「修学旅行だけに京都か」と思われた方もいらっしゃるかも
しれません(京都は関東地方の高校の修学旅行先の定番なのです)。しかしアカデミーのバスは渋滞
する京都市街の観光地を素通りして、山の奥、南丹市美山町の京都大学芦生研究林へ。高校の修学旅
行とはひと味違います。


京都大学芦生研究林事務所

芦生の森は東京帝国大学理学部教授の中井猛之進博士が1941年に、その名も「植物ヲ學ブモノハ一度
ハ京大ノ芦生演習林ヲ見ルベシ」という題名の論文(ストレートなタイトルですね)を出されたこと
から有名になりました。近畿地方随一の秘境とも呼ばれています。植物や森林を学ぶ者なら一度ハ訪
レテミタイあこがれの森ですね。

天候は生憎の雨でしたが、研究林長の長谷川先生の案内で、最奥部の原生林を訪ねました。

まず目をひくのは大きなトチノキです。由良川源流部にあたるこの谷には、多くの栃の大木が生えて
います。雨に煙る栃の森で、学生もその大きさに圧倒されていました。

(左)トチノキ         (右)トチの実


今年は成り年だったのでしょう、地面にはおびただしい数の実が落ちていました。昔から栃
の実は栃餅の材料として使われてきました。重要な山の産物の一つです。

栃の大木が落とす実を食べるのは、人間だけではありません。当然大型の野生鳥獣の餌になります。
トチノキの多い芦生の森は、多くの動物が暮らせる豊かな森でもあるのです。が、多くの動物も、
行きすぎるととんでもないことに・・・。

シカ柵と林床の植生

写真は芦生研究林で設定した調査プロットだそうですが、シカの入ってこれないよう張ったネットの
外側にはほとんど植物が生えていません。鹿さんにやられてしまったのですね。「ヨモギですら絶滅
危惧」。噂には聞いていましたが、これほどすごいとは・・・。このままではある程度の大きさの樹
木以外はほとんど絶滅してしまいます。当然ブナ帯の林床に普通なササ類も、ほとんど見られません。
温帯のブナ林を見慣れた目には、異様に映ります。中井猛之進先生もあの世でさぞや嘆いておられる
ことでしょう。

イワヒメワラビ群落

シカが増えすぎると、植生の破壊が起こると同時に、忌避植物(シカが好まない植物)が繁茂します。
写真のイワヒメワラビは近畿地方では有名なシカの忌避植物です。このように、偏った植生がみられ
るようになるのです。もちろんシカは造林した苗木を食べてしまいますし、樹皮を剥いでしまって材
価を下げてしまいます。林業にとっても大きなダメージです。

アシウスギ

写真は「アシウスギ」です。ウラスギとも呼ばれ、日本海側の多雪地に生える天然杉です。
枝が垂れていますが、接地した場所から発根し、そこから先の枝が幹になります。「伏条」と呼ばれ
る繁殖方法です。多雪地ならではですね。太平洋側に生えるオモテスギだと、雪の重みで枝や幹が折
れてしまいます。

お疲れさまでした!


いろいろ解説していただきながら、無事に由良川源流最奥部、杉尾峠まで歩き切ることができました。
シカによる植生後退と土砂の流出や水質の変化の話など、お聞きした話はいっぱいありますが、紙面の
都合でここまでにします。もっと詳しく知りたい方は、ぜひ森林文化アカデミーへ!

                        (ブログは国内研修2日目へと続きます・・・)