今回は林業関係情報誌などでよく拝見する林材ライターの赤堀楠雄さんと、㈱要林業の杉山要
さんをお招きして、お二人が最近収集された情報や新技術などを特別に学び、今後の施業プラン
ナー活動のヒントをさぐりました。
杉山要さん、赤堀楠雄さんとも、森林文化アカデミー主催の「施業プランナー技術維持研修」のた
めならばと長野からお越し下さり、各々「林業業界における新技術等の情報提供」と「森林・林業
における国内の状況」と題して、多くのヒントを提供して下さいました。
さて、杉山要さんが紹介された「林業業界における新技術等の情報提供」では、高知県の森林
組合の事例で、このブログではあえて組合の名前は公表は控えますが、内容をご覧になればこの
組合の取り組みの凄さから、どこの組合かは容易に推測できると思います。
ご紹介頂いた組合は内部職員が約10人、現場技術者約40人、タワーヤーダやスイングヤーダ、集材機、自走搬器、プロセッサ、グラップル付トラックなど17台を所有し、架線集材に明るい組合
です。
最初に組合が実際に行った集材事例を題材に、研修生の集材や作業道解説のミニワークショップを開催。
この組合の取り組みは、岐阜県には相当参考になります。何故なら、この組合はもともと路網開
設も特異でしたが、ある日「道づくりによる森林整備、林業経営に限界を感じた」ことから、架線集
材に力を入れ、近年は現場技術者自身がオーストリアに研修に出かけて、ワンダーファルケとい
うタワーヤーダを輸入して実際に集材をしているからです。
この組合では10年以上前に日本中で流行したタワーヤーダを見直し、再度導入するにあたり、
(1)伐採者、(2)索張専門者、(3)先山(荷掛け専門者)の三人のフォレストワーカーをオーストリア
の林業専門学校オッシアッハで5日間研修を受けさせ、更にタワーヤーダのメーカーで一週間の
研修を受けさせ、日本に帰ってきてからオーストリアから招いた技術者に3日間の研修を受けた
そうです。
こうした技術者に対する人材育成のための技術投資、なかなかできないことです。
単に、研修を受けただけではありません。その後、自分の組合に新人が入れば、新人一人に
一人の熟練者がつきみっちり指導する。それも新人が配属された親方とは限らず、違う班の熟練
者がつくことも多い。
こうした人材育成の考え方は、ドイツのマイスター制度に近い考え方ですね。
ここで導入されているワンダーファルケはオーストリア マイヤーメルンホフ フォレストテクニック社
製で、全長6.57m、全幅2.37mの本体を、ジョンディア製の牽引トラクター6930プレミアム 211馬力
で移動するそうです。・・・・スゴイの一言。
ワイヤードラムは多くの機種ではインターロック機構(簡単に言えば、ワーヤーの出た分だけブレ
ーキングする方式)でなく、シンクロ機構を採用しているため加重がかかってもタワーが揺れること
がない。
また、主索にはディスクブレーキが作動しているが、8ton以上の加重がかかると自動的に主索が
下降するシステムが採用されています。
また、尾根越しも設定も可能な架線設定もでき、まだまだ、個人的には興味深い機能があります
が、機械メーカーの宣伝になりかねませんので、この辺にしておきます。
このタワーヤーダにセットの搬器がまたスゴイ。 搬器の名は「シェルパ搬器」というもので、本当
に興味深いのです。詳しく知りたい人は、高知県立森林技術センターの報告などを参考にしてくだ
さい。
さらに荷掛けには「オートチョーカー」を採用されています。タワーヤーダでつり上げた荷物(丸
太)のワイヤーを自動的に外す装置なため、結構お高いのですが、これがあれば元柱近くで作業
するプロセッサオペレーターがワイヤーを外すために、
(1)車外に出なくても良く。 (2)しかも少ないワーカーで。 (3)なおかつ安全に作業できる。
ワーカー一人当たりの作業効率や労災などを考えると、大変有効な手段です。
さらにこの組合のワーカーは自分たちのトラックに、常時アセチレン溶接や電気溶接の機械など
も積み込んでおり(もちろん溶接の資格も取得して)、現場で修理したり、安全に効率よく作業する
ための様々な工夫をする。そうした「技術力」がスゴイのです。
「索張りをすることは、安全を一つ一つ組み立ててゆくこと。つまり、撤収する時は安全を外す
時、だから危険な撤収はしっかりすべき」
こんな考え方を持った技術集団があるのです。そしてこの技術集団を束ねるのが、熱心に山の
現場を見回る頼れる組合長さん、こうした理想的な森林組合があるものなのだと感心しました。
午後からは赤堀楠雄さんから「森林・林業における国内の状況」を講義して頂きました。副題的
に「木材を有利販売するには・・・」という切り口で、ヨーロッパや国内の情報を提供して頂きました。
内容によってはブログに掲載できないモノもありますので、そのp部分は割愛させて頂きます。
最初に「林業とは何か?」という問いかけです。
この問いかけに、日本人の多くは、
「森林整備、森林管理、マネジメントの確保・・・など」 言葉をならべるだけで、経営その
ものにつながる言葉が出てこない。
これに対してドイツやオーストリアなどでは誰に聞いても、
「林業とは木材を生産し、販売利益を上げ、その利益をもとに管理や木材生産に携わる
人たちが適切な収入を得ること。さらにそうした行為を持続可能にすること」と回答する。
今回も赤堀さんの講義の切り出しは衝撃的な言葉から始まったのです。
そして、ヨーロッパでの行政のフォレスター、ヨーロッパでの民間のフォレスター、日本とヨーロッパ
でのフォレスター比較などについいて語られ、施業プランナーの役割重要性を説かれました。
続いて、林業経営収入と製材工場の採算性についての中で、森林所有者の利益が確保されて
いないならば、林業は儲からない。
現在の森林整備事業は補助金投入収支にのみ目が向いている。多くの林業事業体が、補助金
を投入する現場確保することばかり考えており、森林所有者利益を考えていない。
考えようによっては、「補助金投入が山での林業経営をダメにしている」とも言える。人によって
は、「補助金がつけばつくほど、良い木材の価格が下がる」とも言っている。
林業が変わるためには、「経費を削減するだけのマネージメントでは未来はない」、むしろ必要なのは「山や木の価値を如何に高めるか」、「木材をどのように付加価値販売するか」、「質の良
い木を如何に安定供給できるか」と言った考えや議論である。
丸太が高く売れないのはどうしてか? → 製材工場はなぜ丸太を高く買えないのか?
その理由を、ヨーロッパの事例や中国木材の考え方を紹介しながら、判り易く説明して下さい
ました。
他にも、各務原市の親和木材の事例、桑原木材の事例、栃木県の二宮木材の事例を紹
介して下さいましたが、どれも参考になる中、一際目をひいたのは、品種にこだわった長伐期林業
として紹介された「熊本の栗屋克範さん」の例。
栗屋さんは多くのところで見られる、単に長伐期林業にする問題先送りではない。つまり樹齢100
年以上でも充分成長できる品種と、100年以内に収入を得られるように成長する品種を林分に配
置して、長伐期林業を目指しているのです。
質の高い木材材が市場で評価されるようになるためには、という項目では、日本マクドナルドの
創業者、藤田田氏が「人間は12歳までに食べてきたものを一生食べ続ける」と語ったこと。つまり
味覚のデータベースは子どものうちにつくられる。ことを事例に、質の良い木材による、本物の木
をつかった木造住宅で子どもを育てるなど、木育の重要性を説かれました。
ここでは大人気の木造建築設計士の伊礼智さんの事例、大工・建具職人の存在、久万高原町の
木造住宅支援事業、天然乾燥無垢材での大型公共施設を紹介。
続く、木の価値を引き上げる生産・販売の実例では、佐賀県の佐藤木材の造材、栃木県の渡辺製材所の製材の考え方、兵庫木材センターの商品に対する考え方、和歌山県の山長商店の商品
選別、滋賀県の宮内建築の木材乾燥法、文具のコクヨやスープストック・トーキョーでの木材利用
、静岡県のXYLキシルの事例など。
林業サイドも(1)営業力 と (2)販売力 を強化して、顧客ニーズやマーケットニーズを把握
する。ユーザーの直接掘り起こしにも取り組む必要があると解説して下さいました。
さて、今回の杉山さんと赤堀さんの講義は、施業プランナーの技術維持研修受講者に限ったもの
でしたが、大変中身の濃い内容で、なんとも贅沢な研修であったことを受講者が感じてくれれば幸
いと感じました。
杉山様、赤堀様、有り難う御座いました。
以上報告、ジリこと川尻秀樹でした。