ものづくり講座では、今年から2年生の授業でこの椅子を作ることにしました。17世紀頃のイギリスが発祥の、ウィンザーチェアです。自由に椅子をデザインするのではなく、あえて昔の椅子の複製を行うことにしたのは、いくつか理由があります。
ウィンザーチェアはかつて人力で作られていたため、大規模な設備を必要としない合理的な構造で、地域の小径木なども生かしやすいデザインです。森に近いところで作られてきた椅子から歴史や技術を学ぶほうが、より森林文化アカデミーらしいと考えたのです。
さらにこの椅子、岐阜県とも縁があります。飛騨の家具メーカーは昭和20年代からウィンザーチェアを量産してアメリカへ輸出していました。戦後復興、高度成長の一翼を担ったのがこの椅子なのです。
また隣の長野県では、この椅子がイギリスの名も無き職人たちの手で発達を遂げてきた歴史から、民藝運動の担い手たちによって紹介され、松本民芸家具として発展していきます。
授業を始めるにあたり、学生たちとウィンザーチェアを巡る1泊2日のスタディツアーへ出かけました。はじめに訪れたのは高山市の飛騨産業。機械化された最先端の木工現場です。かつて人力で作られていたとはいえ、今はこれほど大規模な設備で椅子づくりが行われているのを目の当たりにして、学生たちは考えさせられることも多かったようです。
ショールームでは許可を得て、商品の寸法を測らせていただきました。いくつもの椅子を測りながら、実際に座り比べてもみることで、設計の傾向がつかめます。さらに元技術部長さんから、設計のポイントも解説していただきました。
高山ではさらに、個人工房を営む渡部継太さんを訪ねました。彼は私(教員・久津輪)の同級生で、工務店や設計士からの注文制作や、オリジナル家具の制作を行なっています。木工作家というより、一匹狼の職人といった方が近いでしょうか。
渡部さんもウィンザーチェアを作っています。よく見るとずいぶん手のかかる加工が施されているのですが、これを限られた設備で、大手にも負けないコストで作っていることに学生たちは舌を巻いていました。この層の厚さが、さすが家具産地・高山です。この後は一緒に飲みに行き、木工経営のリアルな話もたっぷり聞かせてもらいました。
学ぶことが盛り沢山のウィンザーチェアの旅。こうして現場から直接学ぶのも、森林文化アカデミーらしさだと思っています。この日は高山に泊まり、翌日は松本へ向かいました。