2013年4月21日日曜日

ゴッホの椅子を追いかけて

森林文化アカデミーの久津輪です。「ゴッホの椅子」と呼ばれるスペインの椅子があるのをご存じですか?いま、この椅子のことをいろいろ調査研究しています。なぜ森林文化アカデミーでスペインの椅子を?と思われるかもしれませんね。でもこれ、スペイン〜京都〜飛騨高山〜皇居(!)〜札幌へとつながる、実に興味深い椅子なのです。

この椅子が作られていたのは南スペインのグアディクスというところです。地元に植林されたポプラの生木を使って、職人が丸太からわずか15分で組み立ててしまう(!)という椅子です。私が興味を持った理由も、はじめはそこでした。生木を人力で削るグリーンウッドワークの活動で、この椅子づくりを講座にしたら楽しそう!と思って調査を始めました。

最初に訪ねたのは、京都の河井寛次郎記念館。ここには5脚のゴッホの椅子が展示されています。この椅子は民芸運動に携わった陶芸家の濱田庄司氏によって日本に紹介され、多くの作家や文人の手に渡ったようです。名も無き職人が生み出した形が「椅子の原点である」として高く評価されたのです。

学生やグリーンウッドワークの仲間とともに、実物を詳しく計測させていただきました。また河井寛次郎氏の孫にあたる学芸員の鷺さんから、この椅子が河合邸にやってきた経緯をお聞きしました。またご厚意で、実物をお借りできることになりました。


この椅子に最も大きな影響を受けたのは、木工芸で最初に人間国宝となった黒田辰秋氏です(中央)。写真は昭和43年に皇居新宮殿の椅子を制作しているところですが、実はこの前年、ゴッホの椅子づくりを見るために、はるばるスペインに渡っているのです。日本には椅子の伝統がないから思いつきでつまらないものを作っては物笑いの種になる、椅子の原点を見ておきたいという趣旨のことが、旅行記に記されています。黒田氏は当時62歳、はじめての海外旅行でした。


制作は、岐阜県高山市の飛騨産業で行われました。そして完成したのが写真の椅子。ゴッホの椅子と大きく異なる「和」を感じさせる椅子ですが、制作中には傍らにゴッホの椅子が置かれていたことが、飛騨産業の方への聞き取りで分かっています。


さて、いよいよゴッホの椅子を制作してみることに。
ありがたいことに、森林文化アカデミーの非常勤講師でもある木工家の谷進一郎さんより、所蔵している子ども版のゴッホの椅子をいただきました。これを分解して、どのような順番で組み立てていったのかヒントを得ることができました。



そして我々も制作。本場では1人の職人が15分で作り上げたそうですが、こちらはずいぶん大がかりです(笑)。

完成!左が森林文化アカデミーで試作したもの、右が河井寛次郎記念館の本物です。なかなか良いできばえでしょう?

この椅子づくりを、この夏北海道で行うことになりました。札幌芸術の森で開催される「木の椅子100人100脚展」の関連イベントとして、岐阜から札幌へお招きいただいたのです。参加者のみなさんに楽しんでいただけるよう、それまでに試作や改良を続ける予定です。
 またグリーンウッドワークの仲間の協力で、ゴッホの椅子についての興味深い資料や証言も次々と集まっています。大きなスケールで椅子について思いを巡らせ、自らの手で椅子をつくる、楽しい講座になりそうです。

もちろん、いずれ岐阜でもやりますよ!お楽しみに!