ウィンザーチェアの旅、2日目は長野県松本市へ。
ここでは戦後間もなく、民芸運動に大きな影響を受けた木工家・池田三四郎氏が洋家具づくりを始め、松本民芸家具を興します。民芸とは、名も無き職人が繰り返し作り続けてきた生活道具の中にこそ真の使いやすさや美しさがあるという考えです。イギリスで大衆のための椅子として作られてきたウィンザーチェアは、まさにその理念を体現した椅子と言えます。
ショールームでは創業者の孫、池田素民さんにお話を聞くことができました。「どうぞどうぞ、好きな椅子に座ってください」と言われ、ウィンザーチェアに座りながらの贅沢な聴講です。池田さんには、松本民芸家具が今もウィンザーにこだわり続ける理由を熱く語っていただきました。やみくもに新しいデザインを考えればいいわけではない、過去から学び繰り返し作り続けていく中で、地域の文化や風土が加味されてオリジナルのものができてくる、今も松本オリジナルの椅子をめざして前進を続けているということでした。
松本民芸家具では、ものづくりを人間形成の場とも捉えていました。見学させていただいた作業場からは、その理念が伝わってくるようでした。
職人さんがひとつひとつ、カンナで削って曲面を仕上げています。前日に見た飛騨のメーカーとはまったく異なるものづくりの光景。あれも木工、これも木工ですが、学生たちにはその対比が強く印象に残ったことでしょう。
ところで日本では家具づくりの材料となる広葉樹が枯渇しています。そのことを池田さんにお尋ねしたところ、もちろんその問題は認識されていて、すべてをすぐに変えられるわけではないが新しい取り組みも行なっている、と試作中の椅子を見せていただきました。軽い木の芯に紙を貼り付け、柿渋で仕上げた「一閑張り」の椅子。松本オリジナルのウィンザーとなるのかどうか、これからの進化が楽しみです。その後、松本民芸館でイギリスから輸入された古いウィンザーチェアの寸法を計測したり、松本市美術館で偶然開催中だった民芸運動の提唱者「柳宗悦展」を見学したりしました。
学ぶことが多すぎて2話では書ききれないウィンザーチェアの旅、第3話へ続きます!