2013年11月29日金曜日

新しい動きがここで起きている 〜エゴノキ・プロジェクト2013+全国和傘サミット

和傘づくりに欠かせないエゴノキを、森林文化アカデミー・林業関係者・和傘業界が協力して採取する「エゴノキ・プロジェクト2013」を、11/23(土)に実施しました。2回めとなる今年も、目標の500本を上回るエゴノキを集めることができました。

このプロジェクトのことは今まで何度か書いてきました(過去の記事はこちら)。竹骨をつなぐ「傘ロクロ」という部品を作るのにエゴノキが必要なのですが、傘ロクロを作る木工所は日本中で岐南町に一軒しかなく、そこへエゴノキを納入する人も下呂市に一人いるだけでした。その人が去年亡くなり材料の供給がストップする事態になったことから、歌舞伎、日本舞踊、祭礼など、あらゆる日本の伝統文化に欠かせない和傘づくりが存続の危機に立たされたのです。

この危機を乗り越えるために急きょ立ち上げられたのがエゴノキ・プロジェクトですが、ここから新しい動きがいくつも起き始めています。

(1)川上から川下までの連携
今年は約50人が、エゴノキのある美濃市の森に集まりました。森林文化アカデミーからは、林業再生・山村づくり・ものづくりの教員6人と学生18人。専門分野の枠を超えての取り組みです。
地元林業グループの「山の駅ふくべ」からも約10人。軽トラックでの運搬やチェンソーや手鋸での伐採に力を発揮してくれました。

和傘業界からは、東京、神奈川、岐阜、鳥取、広島、徳島、福岡と、日本全国の職人が集まりました。加えて京都から、創業323年と151年の和傘の老舗2軒が参加してくれました。
さらに中濃森林組合、岐阜県林政部、森林文化アカデミーの生涯学習講座の参加者など、有志の人たちの参加もありました。
「川上から川下までのつながり」という表現を私たちはよく使いますが、材料を伐る山側の人たちと、その材料を使う職人さんたち、さらに製品をお客さんに届けるお店の人たちに至るまで、これほど川上から川下までが一緒に一つの課題に取り組む例は珍しいのではないでしょうか。京都の老舗和傘屋さんがこんなことを言っておられました。
「材料を伐る人、傘を作る人、どちらが無くても私たちの商売は成り立ちません。だからお手伝いをしにきました」
「材料があって初めて和傘が作れるということを教えるために息子を連れてきました」
印象に残った言葉です。

(2)持続可能性への取り組み
美濃市の森には非常に良質のエゴノキが密生していることが分かりましたが、日本中の和傘づくりに必要な量を伐り続けられるのか、調査が必要でした。そこで、森林文化アカデミー2年の水島寛人さんが1年間かけて資源量調査を行い、持続的に伐採できる本数を試算してくれました。調査結果は当日発表され、ほぼ毎年500本ずつのエゴノキを伐採できることが明らかになりました。

さらに、今年は4種類の伐採方法を試して、伐採後の更新を観察することにしました。
エゴノキだけを伐採する区画、競争を促すためエゴノキ以外もすべて皆伐する区画、日当たりをよくするため皆伐に加えてササ刈りもする区画、シカに新芽を食われないよう胸の高さで伐る区画、の4つです。
この調査研究は、水島さんの後輩に引き継がれる予定です。このような科学的な知見を取り入れながら森林を利用し、ものづくりに生かしていく活動ができるのは、森林文化アカデミーならではです。

(3)業界のネットワークづくり
全国の和傘職人さん達が美濃に集まるのを機に、エゴノキ・プロジェクトの翌日に「全国和傘サミット」が開かれました。実は和傘業界には横のつながりがほとんどなく、こうして全国の作り手が一同に会するのは初めてのことです。
この会を呼びかけたのは東京の和傘愛好家、関盛孝友さんです。関盛さんは和傘を愛するだけにとどまらず、全国の和傘産地を訪ね歩いて職人さんたちとも交流しています。去年エゴノキの危機を呼びかけた際も、いち早く東京から駆けつけてくれました。関盛さんはこの危機を業界全体で乗り越え、プラスに転じようと和傘サミットを企画し、森林文化アカデミーもお手伝いさせていただきました。

サミットではさまざまな課題が話し合われたほか、それぞれが持ち寄った自作の傘を披露しての交流も行われました。みなさん熱心に細部を見て、写真を撮り、言葉を交わします。まだ1回めですが、ここから何かが始まると予感させてくれるものでした。


サミット後にはみんなでエゴノキを木工所へ運び、傘ロクロづくりを見学。日本中の和傘職人さんがここの部品を使っているのですが、作っている現場を見るのは初めての方も多く、これもよい機会となりました。景気が良く需要がある時は、材料も部品もそれぞれ分業先にまかせておけば成り立っていたのですが、これからはみんながつながり全体で支える、そういう時代になったことを参加者全員が感じたのではないでしょうか。

(4)人材の育成
今回エゴノキ・プロジェクトに参加した中に、来年から和傘職人見習いとして働き始める学生と、傘ロクロづくりの後継者を目指して木工を学んでいる学生がいます。森林文化アカデミーがエゴノキ・プロジェクトを機に和傘業界とつながりができたことから、この分野を志す学生が現れました。こうして伝統工芸の業界と連携して、これからも材料供給の支援や人材育成の支援を行なっていければと思っています。

エゴノキ・プロジェクトは来年以降も続きます。
エゴノキの切り株から新芽が出てくるように、ここから次々と新しい動きが生まれるよう、活動を大切に育てていきたいと思います。