2015年1月27日火曜日

長野県の「環境福祉」の現場を訪ねて


山村づくり講座2年生の「コミュニティデザイン総合演習」では、学生自身が関心あるテーマを持ち寄り、共通テーマを設定しながら、ゼミ形式の授業やフィールド実習を行ってきました。

今年度の共通テーマは「環境福祉」です。山間集落で「いきがい農業」として伝統野菜を作り続ける高齢者を訪ねたり、「リワーク」をキーワードに都会生活で受けたストレスを農林業体験の中でリフレッシュしてもらう体験プログラムを実施したり、都市部に残された憩いの場としての「都市緑地の効用」をフィールド実習で探ったりしてきました。環境と福祉の相互作用を考え、両者の統合を図るという「環境福祉」の考え方に少しずつ迫ってきた私たちは、最終回の授業で長野県の先進事例を訪ねました。


1日目(1月25日)、天竜川が削った河岸段丘地形や、雪をかぶった中央アルプスの山脈、そして一面のリンゴ畑が印象的な、松川町、中川村を訪ねました。松川町では「森林セラピー基地」に指定されている松川渓谷「およりての森」を歩きました。冬期とあって森閑とした雪景色の「散策コース」をザクザクと足音を立てながら歩いていくと、身も心も清浄になっていくようでした。


次にお訪ねしたのは中川村のNPO法人信州伊那自給楽園が運営する「アグリセラピー講座」という新しいプログラムです。本来は6ヶ月程度かけて「自然栽培」農法を体験しながら、自己をみつめるワークを軸に「自分を自分らしく生きる」ことを目指すプログラムで、その効果はストレス耐性(SOC)などの指標で測定していきます。


今回は2日間の試行プログラムの最中にお邪魔して、アグリセラピーの発案者である講師の福本裕子さん(臨床心理士)と運営団体の小林正明さん(NPO伊那里イーラ事務局長)にお話を伺いました。お二人とも、都市部の生活者が抱えるストレス問題と、田舎の農的環境や人的資源を結び付けて、「新しい里山の英知」を創っていくことに意欲的でした。私たちも大いに刺激を受けました。

 参照)NPO法人オーガニック・ライフ・コラボレーション
      NPO法人伊那里イーラ「信州伊那里 自給楽園」



2日目(1月26日)は、佐久市の「佐久総合病院」を訪ねて名誉院長の夏川周介先生からお話を伺いました。佐久総合病院は「地域医療」のトップランナーとして余りにも有名です。戦後すぐに「農民とともに」を標榜して農薬被害などの農民の健康被害の改善、婦人や子ども達の栄養指導や疾病予防、集落を巡回して集団健診を行った結果を「集落健康台帳」にまとめて予防医学の基礎データにするなど、日本初の先進的な取り組みを70年にわたって続けてきた東信地域の中核病院です。


当時の若月俊一院長はアイデアにも優れていて、農村部では"お医者様への遠慮や警戒心"が強かったため、病院内の医師と看護士を集めて演劇部を結成し、集落を訪れると先ず「健康講話」という名のお芝居を演じ、住民がそれを楽しみに集って笑った後で、健康診断を始めるといった方法を採っていたそうです。


夏川先生はそうした「農村医療の歩み」の実体験とともに、自ら携わってこられた近年の「医療・福祉・保健の連携システム」の推進;往診専門の診療科「地域ケア科」の設置と在宅医療の推進(S63~)、ドクターヘリの配置(H17~)、先端医療の新拠点となる佐久医療センターの整備(H25)などについても語ってくださいました。その基本的な姿勢は「医療・福祉・教育こそ地域づくりの基礎である」という揺るぎない信念です。地道な努力の積み重ねと柔軟な発想法に私たちも大いに学びたいと思いました。



岐阜から長野県をぐるっと回って2日間で650キロを走破した研修旅行でしたが、それだけの価値ある多くの学びを得ました。学生それぞれの糧にしてほしいと思います。


記: 山村づくり講座 教員 嵯峨創平